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シンポジウム「秘密保護法を監視する」

会報「SOPHIA」 平成28年4月号より

秘密保護法対策本部事務局長   新海  聡

  1.  秘密保護法は2013年12月に成立した。1年後の14年12月に施行され、昨年12月に施行1年をむかえた。制定直前には反対運動も盛り上がったものの、今、秘密保護法に関心を持っている市民はどれだけいるのだろうか。いや、市民だけではない、弁護士も、だ。3月26日に開催されたシンポジウム「秘密保護法を監視する」は、秘密保護法に対する関心の「風化」に対する危機意識から企画された。

  2.  はじめに、法制定の前後を通して問題点の取材を続けてきた毎日新聞の青島顕記者による「秘密保護法のこれから」という内容の報告が行れた。秘密保護法によって会計検査院が検査できない「領域」が生まれたことが、憲法90条に違反する、と会計検査院が指摘した。にもかかわらず、はっきりした改善がなされていないこと。政府内の監視機関も、僅か165件の文書を見ただけで、合格のお墨付きを与えた。しかし165件は、秘密を指定した省庁自身が選んだものであったこと。国会議員によって構成される情報審査会が、議席数に比例して議員が選出されるため、多数決によって特定秘密の指定の監視が十分できないこと。同審査会に内部告発者の保護の制度が未だに作られていないこと。あの2013年12月の法制定直前に、政権が何とか法を通そうと安請け合いした濫用防止の制度が、予想通り、機能していないことが次々に指摘された。秘密保護法によって目に見えてかわったことがないからといって、安穏としてはいられない。秘密保護法は有事の時に威力を発揮するはずだ、という同記者の指摘には説得力があった。

  3.  休憩を挟んでパネルディスカッションが行われた。これには筆者も参加し、秘密保護法の立法過程の文書が法制定前には国会議員に対しても国は公開しなかったこと、法制定後は、情報の公開によって外国との関係に不当な影響を及ぼす、という内容に不開示事由を変えてきたこと、取消訴訟で地方裁判所が国の判断を全面的に認めたことを報告した。また、市民代表として参加した内田隆氏は、自身が事務局をつとめるNPOで特定秘密を対象とした不開示決定に対して異議申立を行っていること、何が秘密かもヒミツにするばかりか、不開示情報の枚数すら明らかにしないこと、その一方で、審査会で行われる筈のインカメラ審理が特定秘密の指定の濫用に対してはある程度の歯止めになるのではないか、といった点が報告された。
     討論の中で筆者は、秘密保護法の影響として、「安全保障」「テロ」「スパイ」といった秘密保護法が用いる用語に対する「慣れ」が情報の「不開示慣れ」を行政機関にもたらすとともに、誤った社会通念となって情報公開や裁判例の後退をもたらしているのではないか、という指摘をした。そして、秘密保護法運用の懸念、というテーマで筆者と青島氏の意見が一致したのは、秘密保護法違反容疑による捜索、差押えの危険だ。逮捕をする必要はない。公安によって情報が収集されてしまうことで報道はアウトだからだ。すでに私戦予備罪の容疑でフリーライターのパソコンが押収されているが、私戦予備罪に比べて、秘密保護法違反容疑による捜索差押えは、より、やり易くなるだろう、と。

  4.  秘密保護法の濫用を防ぐのは、現在のところ、ジャーナリストと市民の監視である。困難な課題であることは間違いない。だからこそ、今、秘密保護法について考える意義を実感したシンポジウムであった。