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特集 法テラス ~設立から10年を迎えて~
会報「SOPHIA」 平成28年4月号より
会報編集委員会
日本司法支援センター(通称「法テラス」。以下「法テラス」といいます)は、司法制度改革の中で平成16年に制定された総合法律支援法に基づき、「法による紛争の解決に必要な情報やサービスの提供が受けられる社会を実現することを目指して」(総合法律支援法)、政府全額出資により平成18年4月10日に設立された公的な法人です。
「法テラス白書」によれば、「法テラス」には、法律によってトラブル解決へと進む道を指し示すことで、相談する方々のもやもやした心に光を「照らす」という意味と、悩みを抱えている方々にくつろいでいただける「テラス」のような場でありたいという意味が込められているそうです。
会報編集委員会では、法テラス設立から満10年を迎える今月号において、改めて法テラスの概要や、どのような経緯のもとで生まれた仕組みであるかを確認すべく、本特集を企画しました。
法テラスの事業
法テラスの主な事業は総合法律支援法(以下「法」)に定める以下の6つである。
1 情報提供業務
コールセンターや地方事務所窓口への問い合わせに応じ、法制度に関する情報と、弁護士会、自治体等の相談機関に関する情報を無料で提供する業務である(法30条1項1号)。
2 民事法律扶助業務
かつての法律扶助協会の事業を引き継ぎ、経済的に余裕のない人が法的トラブルにあった時に無料で法律相談を行い(法律相談援助)、弁護士費用等の立替えを行う(代理援助・書面作成援助)業務である(法30条1項2号)。
3 国選弁護等関連業務
国の委託に基づき、裁判所の求めに応じて契約弁護士の中から国選弁護人・付添人の指名及び裁判所への通知を行い、また、国選弁護人・付添人に対して報酬・費用の支払いなどをする業務である(法30条1項3号)。
4 司法過疎対策業務
法律サービスへのアクセスが困難な司法過疎地域の解消のため、スタッフ弁護士が常駐する地域事務所の設置等を行う業務である(法30条1項4号)。
5 犯罪被害者支援業務
犯罪被害についての相談窓口や被害回復を図るための法制度についての情報提供や、精通弁護士の紹介等を行う業務である(法30条1項5号)。
6 受託事業(日弁連委託援助事業)
民事法律扶助制度や国選弁護等でカバーされていない手続(被疑者弁護、少年保護事件付添、犯罪被害者、難民認定、外国人、子ども、障害者、高齢者、ホームレス等)を対象とし、日弁連からの委託により、弁護士費用等の援助を行う業務である(法30条2項)。
法テラスの歴史
1 弁護士会のもとでの法律扶助事業
法律扶助協会(以下「扶助協会」)は、1952年、日弁連により設立された財団法人である。
その歴史は、日本にも法律扶助を実施する組織を設立すべしというGHQの指示に遡る。1949年、法務府は第二東京弁護士会を通じて発足を控えた日弁連に法律扶助を実施する組織の設立のための検討を要請した。法務府と日弁連それぞれが作成した構想は、事業の主たる財源をどこに求めるかという点で異なっていたが、最終的には、戦前・戦中の司法大臣と検事局の支配から脱し、自治を獲得した弁護士会の構想に基づき、弁護士会の拠出や民間からの寄付等を主たる財源とする扶助協会が発足した。
しかし扶助協会は安定財源を欠き、ほどなく資金不足となった。1958年度からは、国庫補助が開始されたが、微々たる金額であった。
扶助協会の運営・管理は全面的に弁護士会が担い、都道府県の各支部に置かれた審査委員会が事件・資金管理にかかる手続きの一切を担当した。国庫補助は直接の裁判費用である事業費以外は対象とならず、職員の人件費等の運営費は全て弁護士会が負担していた。
2 民事法律扶助法の制定
1988年、法務省は、民事法律扶助の国庫補助金(88年度は8335万円)を89年度からの5年間に倍増する計画を立て、1年の前倒しで同計画は実現された。その後、法務省、扶助協会、日弁連は、民事法律扶助に関する報告書をまとめ、並行して欧州へ法律扶助視察団を派遣した。
1994年10月、法務省、日弁連、扶助協会の間で、我が国の司法制度に適合した望ましい法律扶助のあり方につき調査研究を行う「法律扶助制度研究会」設置が合意された。同研究会は94年11月に開始され、98年3月、報告書が作られた。なおこの研究会では審議と並行して法律扶助のニーズ調査を実施し、諸外国へ調査団を派遣した。
研究会報告を受けて立法準備が進められ、2000年4月、民事法律扶助法が制定され、扶助協会は民事法律扶助を行う法人として、法務大臣の指定を受けた。
3 民事法律扶助法のもとでの扶助協会
同法のもとでの事業は、①国の責任が明示され、事務・運営費についても一定の補助が得られたこと、②「相談登録弁護士」の制度により、事務所で援助申込みができるようになりアクセス・ポイントが大きく広がったこと、③司法書士が新たなサービス提供者として加わったことなどが特徴であった。しかし、国の責務は努力義務にとどまった。
そんな中で、2001年6月、内閣に設置された司法制度改革審議会の意見書は、「欧米諸国と比べれば、民事法律扶助事業の対象事件の範囲、対象者の範囲は限定的であり、予算規模も小さく、憲法第32条の『裁判を受ける権利』の実質的保障という観点からはなお不十分」とした上で、法律扶助制度の体制の整備を国の責務と明確に位置づけ、そのために公的資金を大幅に拡充することを要請した。
4 総合法律支援法の制定
2003年初旬、政府は、市民の司法アクセスを確保するために全国津々浦々に拠点を整備した独立行政法人を設置し、①司法アクセス窓口業務、②弁護士過疎地域におけるリーガルサービスの提供、③公的弁護に関する一連の業務、④民事法律扶助に関連する業務、⑤従来の民事法律扶助でカバーできなかった各種の法律援助業務を行うというリーガルサービスセンターを構想するに至った。日弁連・扶助協会は、同構想を大筋で支持した上で、弁護士等の活動の独立性の確保、新事業への柔軟な対応、事業費・管理費の十分な確保、適正な報酬基準の策定などを提言した。
リーガルサービスセンター構想は「司法ネット」という名称で議論された後、総合法律支援法案として国会上程され、同法は、2004年5月に成立した。
5 法テラスの設立と扶助協会の解散
2006年4月に「法テラス」が設立され、同年10月より事業を開始した。扶助協会はこの時点で民事法律扶助業務を「法テラス」に引き継ぎ、同2007年3月、解散した。
【参考書籍】法テラスの誕生と歴史(寺井一弘著/日本評論社)