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シンポジウム 安心・安全?監視社会 ~今も、あなたは視られている!~

会報「SOPHIA」 平成28年2月号より

情報問題対策委員会 委員
浮葉 遼

はじめに

 2月6日(土)、元北海道警察釧路方面本部長の原田宏二氏と日弁連情報問題対策委員会副委員長の武藤糾明弁護士を招き、当会館5階ホールにて表記のシンポを開催した。来場者数100名を超える大盛況となり、監視カメラへの関心の高さがうかがえた。

監視カメラは有用か

 監視カメラは犯罪予防に有用である一方、プライバシー侵害が甚だしいので、このバランスを如何に調整するかが課題だと考えていた。しかし、そもそも監視カメラは犯罪予防に有用なのであろうか。

 近年、監視カメラの設置が急速に増える中、犯罪発生件数は減少傾向にあるが、これは監視カメラの設置による効果ではないという。武藤弁護士によれば、犯罪発生件数の多い地域に監視カメラを設置すれば、その地域の犯罪は減少するが、単に地理的移転が起きているに過ぎない。原田氏は、近年の犯罪発生件数の減少は、若者人口の減少による当然の結果だという。

 実は、監視カメラの犯罪予防への有用性はほとんど立証されていないのだ。

監視カメラによるプライバシー侵害

 指紋の採取と異なり、監視カメラによる撮影は、当人が気づかないままに行われてしまう。つまり、断る機会が与えられていないのだ。

 また、監視カメラの画像の信用性の高さ故に、誤った捜査がされたときに取り返しがつかなくなる。原田氏は、過去実際に起きたひき逃げ事件の捜査を例にあげた。この事件では、捜査の過程で、マスコミが被疑者とされる女性の映った監視カメラの画像を「ひき逃げ犯」として新聞に載せてしまった。女性は警察に出頭したが、結局、ひき逃げの立証はできず、交通事故として処理された。このようなマスコミを使った公開捜査自体が大問題でもあるが、その女性には回復できない人格的被害が生じている。世間からひき逃げ犯として認識され、人生は180度変わってしまったに違いない。

 さらに、武藤弁護士は、顔認証システムとの組み合わせによって、飛躍的にプライバシー侵害を助長する旨指摘する。顔認証システムとは、監視カメラで撮影された人物の顔の部分を抽出し、目、耳、鼻などの位置関係やパーツの特徴を数値化し、あらかじめデータベースに登録された特定の人物の顔データベースとを自動的に照合するものである。これによって、事後的に特定の人物の行動を調べることができてしまう。さらには、その人物の今後の行動を追いかけることも技術的に可能だという。例えば、将来犯罪をするかもしれないと考えられている者の行動を常に監視することが可能というわけだ。このように、顔認証システムには、指紋等とは比較にならないほどのプライバシー侵害の危険があるにもかかわらず、その運用について法による規制が全くない。犯罪の発生すら必要とせず、自由に使えてしまうのだ。

さいごに

 これらの問題について検討することなく、今日では、安心・安全のためとして市民側から監視カメラの設置を希望している。

 監視カメラにより、知らないうちにプライバシーが侵害されるという意識をしっかりと持たなければならない。