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勉強会 セクシュアル・マイノリティを取り巻く制度の現状と課題

会報「SOPHIA」 平成28年2月号より

両性の平等に関する委員会 委員
堀江 哲史

概要

 1月29日、「セクシュアル・マイノリティを取り巻く制度の現状と課題」についての勉強会が開催されました。

 セクシュアル・マイノリティとは、「性のあり方」が少数派の人たちのことです。近年、LGBTという言葉をメディア等でも見かけるようになっており、これがセクシュアル・マイノリティの総称のように使われていることもあります。しかしLGBTとは、レズビアン(L)、ゲイ(G)、バイセクシュアル(B)、トランスジェンダー(T)の頭文字をとったものです。インター・セクシュアル、アセクシュアルなど、LGBT以外のセクシュアリティも存在するため、LGBTとセクシュアル・マイノリティが同義ではない点に、注意が必要です。

 今回の勉強会では、中京大学国際教養学部教授の風間孝さん、当事者支援団体のNPO法人PROUD LIFE代表理事の安間優希さんに講師をお願いし、私も法制度の現状と課題についてお話をさせていただきました。

「性のあり方」の多様性

 風間さんからは、性の多様性についての基本概念と、欧米や日本におけるゲイ・リベレーション(解放運動)の歴史について、お話をしていただきました。

 性の基本概念として、性のあり方は①身体の性、②心の性(性自認)、③外見の性、④好きになる性(性的指向)という区分がされます(この区分については諸説あります)。

 性自認と性的指向については混同されがちですが、異なる概念です。

 例えば、ゲイやレズビアンといった同性愛者は、恋愛・性的感情がどの性に向いているか、という性的指向の点で少数派とされる人たちのことです。

 他方、性自認とは、本人が主観的に自認する性別のことですので、性的指向の問題とは異なります。

 トランスジェンダーは、身体や戸籍の性別と自認する性との間に違和感を持つ人のことですので、性自認の話です。この点について、勉強会の中で次のようなクイズが出されました。

 「MtFが惹かれる性は男性?女性?」 

 MtFとは、身体の性は男性で性自認は女性の当事者のことを指します。
さて、このクイズ、おわかりでしょうか?正解は「その人による」です。

 性自認が女性だからといって、必ずしも男性に惹かれるわけではありません。MtFの方の中には、男性に惹かれる方、女性に惹かれる方、あるいは両方の性に惹かれる方もいます。性自認と性的指向は、別の次元の問題ということです。

ゲイ・リベレーションの歴史

 19世紀頃、ドイツ、イギリス、アメリカなどで同性間の性行為を、刑法上の犯罪とする「犯罪化」が進められました。

 これに対し、「同性愛は先天的な変質(病理)であり、刑法による処罰は不公正」という「病理化」の主張が、当事者の側からなされました。刑罰に対抗するために、「病理」という主張をせざるを得なかったということだと思います。

 このような「犯罪化」と「病理化」の歴史がありましたが、1973年には、アメリカ精神医学会の疾患リストから同性愛が削除され、また、WHOで1990年に採択された「ICD-10」では、「性的指向自体は、障害と考えられるべきではない」とされました。

 日本では、1990年に起きた「府中青年の家事件」をきっかけに、行政やマスコミの意識が高まり、当事者の社会参加が進むようになりました。

 近年では、渋谷区や世田谷区が、同性間のパートナーシップを公的に証明する制度を設けるなど、自治体レベルの取り組みが注目されています。

当事者の苦悩とコミュニティの課題

 安間さんからは、青年期に性別についての違和感に悩んだ話など、当事者としての苦悩が語られました。

 違和感を感じつつも、自認する性として生きていくことによって、家族から孤立したり、職場にいられなくなるのではないかという不安や、差別・偏見にさらされることの恐怖との葛藤があることが語られました。

 次に、セクシュアル・マイノリティのコミュニティの課題として、社会資源の乏しさが挙げられました。LGBTの当事者は、全人口の約5%程度と言われています。つまり、いろいろな団体、集団において、20人に1人程度は、LGBTの当事者がいるはずなのに、それを想定した制度設計になっていないということです。

 また、特に支援団体の課題として、人的・経済的基盤の脆弱性、地域偏在性、他の業界との交流の少なさ、常設施設の少なさを挙げられていました。ソフト面、ハード面ともにまだまだ課題が多くあるといえます。

 安間さんから法律家に対しては、当事者にとっては相談に行くこと自体、ハードルが高いのに、心ない対応によって、二次被害が生じかねないとの指摘がありました。

 その他にも、コミュニティとの連携や、差別解消法、同性婚などの法整備の必要性についても訴えられました。

法制度の現状と弁護士の取り組み

 国際的には、性的指向、性自認の多様性を、個人のあり方として肯定する傾向にあり、また、前述のとおり、自治体レベルでは、性の多様性を肯定する取り組みが進んできています。

 司法の場においても、前述の府中青年の家事件や、法律上も父になりたい裁判・最高裁決定(平成25年12月10日、第三小法廷)等、性の多様性を、生来的なものとして尊重する考え方が定着しているといえます。

 しかし、セクシュアル・マイノリティを取り巻く法制度が整えられているとは決していえません。

 現在、日本の法律で、同性愛者の存在を想定して定められた法律は、存在しません。トランスジェンダーに関しては、性別の取扱いの変更に関する性同一性障害特例法という法律がありますが、要件が厳格すぎるという問題点が指摘されています。

 このような状況に関し、現在、日弁連に対し、同性婚の法制化に関する人権救済申立てがなされています。セクシュアル・マイノリティに関する人権救済申立ては、これまでに複数申し立てられており、処遇の改善につながった事例もあります。

 その他、単位会の取り組みとして、東京弁護士会や大阪弁護士会では、定期的な電話相談、会員向けの研修が行われているという報告もさせていただきました。

 このような他会の取り組みから、また、風間さん、安間さんのお話も伺い、当会でも当事者に対する法的支援の取り組みにつき、検討、実施していく必要があると改めて思いました。