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子どもの事件の現場から(152) 少年との斜めの関係

会報「SOPHIA」 平成28年2月号より

会員 加藤 由理

  1.  私は、初めての少年事件として、西脇健人会員が担当された少年事件を共同受任させていただきました。暴走族に入っている少年が無免許で暴走行為を行ったという道交法違反保護事件でした。そして、少年は、以前にも道交法違反で保護観察処分を受けており、保護観察中でした。
     早速、鑑別所に会いに行き、なぜ暴走行為をしたのか聞いても、少年は、上の方を見て「わからない」と答えるばかりで、真剣味がなく、どこか自分を諦めている雰囲気でした。少年は、大抵のことに「わからない」と答え、あまり話してはくれず、壁を作っているようでした。その際、多田元会員の、少年にはちょっと頼りないけど友達よりは頼りになるお兄さんお姉さんのような斜めの関係が必要だという言葉を思い出し、西脇会員がいてくれるからこそ、私は少年にとっての斜めの関係になり、少年と私の間にある壁を取り払えるようにしようと思いました。
  2.  少年の生活は、朝6時に遅刻することもなく出勤し、夕方5時に仕事が終わると、友達と遊ぶなどし、夜は次の日の仕事のために12時には就寝するという大変規則正しいものでした。両親は、少年が暴走行為を好きなのだと思っていましたが、少年の生活態度や楽しそうに仕事の話をする様子から、少年がなぜ暴走行為をしていたのか不思議でなりませんでした。
  3.  そして、いよいよ審判期日が近づいていた頃、少年は別の暴走行為で、再逮捕されてしまいました。この時は、初めて会ったときよりかなり落ち込んでいる様子だったので、西脇会員と交代で頻繁に会いに行くことにしました。少年とは、友達のこと、好きな映画・音楽のこと、休日の過ごし方等色々なことを話しました。そのような話をする中で、ある時、少年がぽつりと「殴られる」と言いました。詳しく聞くと、2年程前から、少年が暴走行為をしないと、暴走族のOBである職場の先輩に暴行されるということを話してくれました。そして、暴走族の他のメンバーが逮捕されることのないよう、あえて一人で走っていました。このような状況であったにもかかわらず両親やまわりの大人には心配をかけたくないから相談できなかったそうです。少年にとっての暴走行為は、自分のための防衛であるとともに両親や友達のことを思ったが故の行為だったのです。規範意識がないと思われた少年の本当の姿は、優しく不器用なものでした。
  4.  その後も別の暴走行為で再逮捕され、少年とは4ヶ月間弁護人・付添人として関わることになりました。暴走行為の真相を話してくれてからは、どこか諦めていたような少年の態度は変わり、暴走行為がなぜだめなのか、どうしたら暴走行為を行わずに済むのか真剣に向き合って考えるようになりました。
  5.  結果的には少年院送致となりましたが、その後、少年から、私宛に手紙が届きました。その手紙は5頁にもおよび、4ヶ月間何を考えていたか、少年院でどう過ごしているか、将来の夢を見つけたこと等が書かれていました。また、友達みたいにいろいろ話せたから本当のことを話せた、勇気がなくて言えなかったけど、ありがとうと書かれていました。少年にとって、私が少しは斜めの関係になることで、成長できたのであれば良かったと思います。初めての少年事件、少年からの手紙は私の宝物です。