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~社会復帰後の環境調整について 地方公共団体の協力が得られたケース~
会報「SOPHIA」 平成28年1月号より
会員 鈴木 典子
事案の概要
本件は、被告人(男性)が、自宅において、うつ伏せの状態で寝ていた被害者(被告人の家族)に対し、その後頭部をコンクリートブロックで2回殴り、頭部挫創の傷害を負わせたという事案である
捜査段階
被告人は、逮捕当時から、本件犯行を素直に認めていたこともあり、逮捕勾留罪名は殺人未遂であった。
被告人は、当時20歳になったばかりであったが、後述するとおり、社会復帰後に頼れる親族や雇用主がおらず、弁護活動としては社会復帰後の環境調整が最重要課題となった。
その後、被告人は傷害罪で起訴された。
起訴後の弁護活動
被告人の家庭環境については、被告人の母親は、被告人が幼い頃に夫からの深刻な暴力を原因として離婚したが、本件犯行当時、被告人の母親は、自宅に戻らないような生活を続けており、被告人の更生に協力が期待できない状態だった。被害者は被告人の兄弟であるが知的障害を抱えており、幼い頃から被告人に暴力を振るったり、会話が上手くできず口論となったりしており、被告人は被害者に対して不満を募らせていた。
被告人には強い就労意欲があり、地元で働きたいという気持ちがあったが、被害者が住む自宅に返すことには再犯可能性の観点からして問題があった。そこで、住み込みの仕事がないかと、私は、逮捕当時の被告人の雇用主などをあたってみたが、拒否された。
検察官の求刑は罰金であり、被告人の帰住先も仕事も見つからないまま判決を待つだけの状態となり、更生緊急保護の手続を利用を検討するほかない状態となった。
ところが、判決の5日前に、地元福祉課の担当者と偶然にも連絡がとれて、話を聞くことができた。福祉課担当者が、本件犯行以前から、被害者が知的障害を抱えていたこと等から被告人の相談も受けていたとのことだった。私から、被告人が強い就労意欲があり地元で住み込みの仕事に就くことを希望していることを伝えたところ、担当者において仕事探しに協力してくれるとのことだった。
判決は、罰金30万円(但し満つるまで算入)となり、被告人にとっては大変軽い刑となった。判決後、私はそのまま市役所に被告人を連れて行くと、福祉課担当者の協力を得て、被告人は寮つきの会社に無事就職することができた。
まとめ
本件は、福祉課担当者と被告人が本件犯行前から繋がりができており、被告人の性格や就労意欲等を福祉課担当者が知っていたこと等の良い条件が重なり、市役所福祉課と連携できたことにより、被告人の社会復帰後の環境調整ができたといえる。
こういったケースは私自身初めての経験であったので参考になればと思い、事例報告させていただいた。