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有松歴史的町並み保存についての学習会

建造物の保存とまちづくりを考える
有松歴史的町並み保存についての学習会

会報「SOPHIA」 平成28年1月号より

公害対策・環境委員会委員
家田 大輔

  1. 12月11日に、名古屋市歴史まちづくり推進室から技師の栗並秀行氏を講師に招き「建造物の保存とまちづくりを考える・有松歴史的町並み保存についての学習会」を開催した。
     歴史的建造物は、その物理的な形によって直接、市民の生活の質を規定する環境となるだけではなく、文化的施設、町並みやそれらの景観により、都市の文化・社会的環境等を形作る都市環境の一部でもある。しかし、歴史的建造物が解体されて失われていく現状がある。そのような現状がある中、名古屋市における有松歴史的町並み保存の取組みを学んだ。
  2. 伝建地区
     有松は、東海道の池鯉鮒宿と鳴海宿の間に出来た町で、江戸時代より「有松絞り」で繁栄し、商家が軒を重ね、現在も歴史的町並みが残っている。有松の町並みは、2016年に伝統的建造物保存地区(以下、伝建地区という)になる見通しである。(追記:その後、2016年2月29日に伝建地区になった。)
     伝建地区は、文化財保護法上、周囲の環境と一体をなして歴史的風致を形成している伝統的な建造物群で価値が高いものとして、文化財の種別の一つにされている。個々の伝統的な建築物を単体で文化財に指定するのではく、その集合体を文化財としているのである。伝建地区になると、文化財保護法に基づき、住民と行政が一体になって、町並みの保存・形成に取り組むことになる。建築行為等が許可制になり、確実に町並みを保存・形成する一方で、建物の修理や修景に要する費用の補助や、税の減免等の支援がされる。
  3. 町並み保存の動き
     有松の町並み保存の歴史は古い。有松は、1974年に、妻籠・今井と共に「全国町並み保存連盟」を発足し、日本における町並み保存運動の発祥の地であった。その後、1975年に文化財保護法が改正され伝建地区制度ができたが、有松は高度成長の時期に、開発と隣合わせになり、町並みの間に交通量が多い道路ができ、分断された。東海道沿いの伝統建築物の数は、40年間で約半(戦前の建物:1975年84戸→2013年42戸)に減少した。このため有松で町並み保存の模索が始まり、ようやく2014年に地域住民・関係権利者の合意が形成された。
  4. 名古屋市の取組み
     名古屋市は、1984年に名古屋市町並み保存要綱に基づき、有松の町並みを「町並み保存地区」に指定し、東海道沿いの古い建物・門・塀等を伝統建築物として指定し、修理に対する助言や補助金を行うなどして保存すると共に、建物の外観に関する基準をガイドライン(努力目標)として定めてきた。その後、2015年11月に有松町並み保存地区の見直し案(最終案)をまとめ、伝建地区の導入を図った。
  5. 課題
     有松では、インフラ整備や景観整備について一定の成果があったが、ソフト面において住民高齢化や空き家対策、人通りが少なく商工業の衰退傾向といった課題がある。また町家を経済的に維持する仕組の構築といった課題もある。伝建地区になることでこれらの課題にどう対応できるのか,引き続き注目していきたい。