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監査等委員会設置会社への移行にあたっての留意点

会報「SOPHIA」 平成27年11月号より

司法制度調査委員会 副委員長
片岡 憲明

平成26年改正会社法によって「監査等委員会設置会社制度」が新たに導入されました。

 監査等委員会設置会社への移行を公表する企業は急増しており、11月20日時点で、同会社への移行を公表した上場企業数は合計で263社に上るそうです。

 指名委員会等設置会社が10月15日時点で65社(但し上場企業)であることをふまえると、監査等委員会設置会社への移行ニーズがいかに大きいものであるかご理解頂けるものと思います。

なぜ監査等委員会設置会社が人気か

 なぜ、ここまで監査等委員会設置会社への移行ニーズが大きいのでしょうか。

 理由の1つは、平成26年改正会社法(327条の2)において、社外取締役の選任が実質上義務づけられたことが挙げられます。

 すなわち会社法327条の2は、公開会社・大会社・監査役会設置会社・有価証券報告提出会社の全てに該当する株式会社について、社外取締役を設置していない場合、定時株主総会において「社外取締役を置くことが相当でない理由」を説明することを要求しています(置くことが相当でない理由を説明することは大変困難だと言われています。)。

 さらに、6月1日から適用が開始されたコーポレート・ガバナンスコード(原則4-8)では、独立社外取締役を少なくとも2名以上選任することを要求しています。

 以上のとおり、「社外取締役」の複数選任が要求されると、監査役会設置会社では、社外監査役2名に加え社外取締役2名の合計4名の社外役員の選任が必要となり、負担が極めて重くなります。

 この点、監査等委員会設置会社に移行すれば、監査役を全廃できますから、従前と同じ2名の社外役員の選任のみで、上記の新たな法規制をクリアできます。

 なお、指名委員会等設置会社も監査役が不要ですが、指名・報酬・監査という3つの委員会を設置する必要があること、各委員会の権限が強力な上に各委員会の過半数を社外取締役で構成する必要があること、から企業にとって導入に対する抵抗感が強いのが実情です。

移行のメリット・デメリット

 具体的に監査等委員会設置会社に移行することのメリット・デメリットは何でしょうか。

★メリット

  • ① 社外役員の数を抑えられる。既に述べたとおり、社外監査役の選任を回避でき、役員数を抑制できます。
  • ② 監査等委員が取締役会の議決権を持つので監督強化につながる。
    監査等委員は取締役ですから、取締役会で議決権を行使できます。
    これによって、議案の修正を求めたり反対票を投じるなど経営判断に直接影響を及ぼすことができます。
    また、議決権行使にあたって慎重な判断が求められますので、取締役会の議論に社外取締役が積極的に参加したり、社外取締役の賛成を得るためにより丁寧な議案説明が行われる等、間接的な監督強化につながります。
    なお、議決権行使以外にも、監査等委員は取締役の選解任や報酬について意見陳述権を持ちますので、監督強化となります。
  • ③ 社外取締役の任期が短い。
    社外取締役の任期は社外監査役(4年)に比べて短く(2年)、人事の自由度が高まります。
  • ④ 機動的な取締役会運営が可能になる。
    定款で定める等により、重要な業務執行の決定を取締役に委任することができ、機動的な取締役会運営ができるようになります。
  • ⑤ 利益相反取引について任務懈怠の推定規定が不適用となる。
    監査等委員会が取締役の利益相反取引について承認する場合には、利益相反取引に関する任務懈怠の推定規定が排除されます。
  • ⑥ 外国人投資家からの理解が得やすい。
    監査役制度は、日本独自の制度であるため、海外機関投資家にはなじみが薄く、議決権すら持たない監査役に実効的な監督ができるか?と疑問視されてきました。
    この点、社外取締役の選任を前提とする監査等委員会設置会社への移行は、外国人投資家にとって馴染みのあるガバナンス体制への移行と理解されることから、外国人投資家による投資を促進する意味合いがあります。
    実際、世界の機関投資家を顧客とするアメリカ最大手の議決権行使助言会社ISSは、監査等委員会設置会社制度を肯定的に評価しており、同会社へ移行する定款変更案について原則として賛成を推奨するとしています。

★デメリット

  • ① 導入に手間暇がかかる。
    当然のことながら、新しい組織への移行には手間暇がかかります。
    もっとも、監査等委員会設置会社は、指名委員会等設置会社に類似した組織も監査役会設置会社に類似した組織も構成することができるという柔軟性がありますから、従来の監査役会設置会社と近似した組織を構成することで、できる限り導入に伴う手間暇や混乱を回避することが可能です。
    例えば、混乱を回避すべく、現在の監査役会の構成員をそのまま監査等委員会に横滑りさせ、必要最小限の変更にとどめておくのも良いかもしれません。
    そして、新体制に慣れてから、徐々に当該企業に適合した組織形態に変更していくのも可能です。
  • ② 取締役の任期が短縮される。
    監査等委員以外の取締役の任期は1年となりますので、従前2年だった場合と比べると大幅な任期短縮になります。
    毎年株主から経営評価を下されるのは、経営者にとって大きなプレッシャーとなることは否めません。
  • ③ 監査等委員の身分保障が若干薄い。
    監査等委員である取締役の任期が2年ですので、監査役(4年)に比べると身分保障が不十分であるかもしれません。④ 監査等委員は独任制の機関ではない。
    監査役の場合、独任制の機関であり、監査役個々がその権限を行使することができますが、監査等委員は、監査等委員会として権限を行使することとされ、単独での権限行使は限られています
    もっとも、監査等委員会設置会社でも、内規等で監査等委員の権限を監査役と同等とすることは禁じられてはいないことから、デメリットを軽減する手当は可能です。

最 後 に

 以上の通り、監査等委員会設置会社にはメリット・デメリットがあります。

 監査等委員会設置会社への移行に際しては定款変更が必須ですので、株主に対する説明が不可欠となります。

 その際、上記各事項を念頭に置いて、デメリットをできるだけ防止する制度設計を行っておくとともに、メリットを丁寧に説明することにより、円滑に監査等委員会設置会社への移行が実現できると思います。