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「安全のため」で本当に大丈夫?
シンポジウム「またも共謀罪法案が!」のご報告
「安全のため」で本当に大丈夫?
シンポジウム「またも共謀罪法案が!」のご報告
会報「SOPHIA」 平成27年11月号より
秘密保全法制対策本部 委員
矢﨑 暁子
- 11月7日、ウィルあいちにて、標記のシンポジウムを開催した。147名もの参加者が集い、関心の高さを感じた。
- 第1部では「この国の向かう先」と題して、ジャーナリストの江川紹子氏に次のような基調講演をいただいた。
監視カメラが増えている。「防犯」にとっての有効性やデメリットが明確でないまま「安全・安心のため」だけが強調されている。また、米国の治安当局が「テロ対策」と称して行った外国要人や自国民の盗聴を日本の治安当局がやっても秘密保護法で「テロ防止秘密」として秘密にできてしまう。そのうえ刑訴法改正案は可視化と引き換えに通信傍受の範囲拡大や立会人なしの傍受を認める内容。その上で共謀罪を導入したらどうなるか。
「安全のために人権を奪う」事例も生じている。ISによる日本人人質殺害事件後、取材のためシリアに渡航を予定していたフリーカメラマンのパスポートを、警察を伴った外務省職員が「本人の生命身体財産保護のため」として没収した。これが許されれば、例えば今後自衛隊が海外に派遣された後、批判的なジャーナリストが同様に「安全のため」として現地取材できなくなる危険も生ずる。
安全や安心は大切だが、他の価値観とのバランスも重要。「安全のため」「迷惑をかけるな」が自粛を求める同調圧力になっていないか。国民の「安全を守ろう」という意識と当局の「できるだけ情報をとりたい」との思惑が奇妙に一体化して国民同士が監視し合う社会ができつつあるのでは。思考停止にならず、「安全」のために何かを犠牲にする必要性やバランス等を考えなければならない。 - 第2部は、四橋和久会員を進行役に、江川氏と平岡秀夫弁護士(第88代法務大臣)によるパネルディスカッションを行った。
平岡弁護士からは、2000年に調印された国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約を批准するために必要だとして2003年以降3回国会に提出され廃案になっているのが共謀罪法案である。長期5年以上の600を超える犯罪について共謀しただけで処罰するという内容。現在も共謀罪法案提出の準備は進んでいてタイミングがはかられている。条約は、犯罪により収益を上げようとする暴力団やマフィアを取り締まるためのもので「テロ防止」のための条約ではないが、オリンピック等に向け「テロ等謀議罪」のように衣替えして提出される可能性があるので、ごまかされてはいけない。との説明がなされた。
江川氏からは、「自分は犯罪とは無縁」と思うかもしれないが、生活の中でしてしまう小さな法律違反や「ぶっ殺してやる」と怒り心頭の知人を宥めるために「そうだよね」と同調する発言した場合などに、共謀罪があると警察は捕まえようと思えば捕まえられることになってしまう、との指摘があった。
平岡弁護士からは、共謀罪法案が自首による必要的減免を内容とする点に触れ、日常的な会話を密告したり傍受の対象にすることを奨励する暗黒社会への懸念が語られ、江川氏も、虚偽自白での引き込みによる冤罪が増えることを危惧すると述べられた。 - パリでの連続多発テロ事件を受けて政府は「テロ防止のために共謀罪新設を」と言いだしたが、平岡弁護士が述べたように、ごまかされてはならない。