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放射能とたたかう ~健康被害・汚染水・汚染廃棄物~

シンポジウム第3分科会
放射能とたたかう ~健康被害・汚染水・汚染廃棄物~

会報「SOPHIA」 平成27年10月号より

会員 樋田 安央

1 はじめに

 10月1日、幕張メッセ国際会議場コンベンションホールBにおいて、標題のシンポジウムが開催され、626名の参加がありました。

 本シンポジウムは、原発事故被害者の健康管理と医療体制の問題、流出する汚染水の問題、放射性物質に汚染された廃棄物の処理・処分の問題という3つの重要な問題をテーマにした3部で構成され、各部で原発事故をめぐる深刻な被害の現状報告、及びその被害の回復・防止のために必要な法制度や施策の提言が行われました。

2 健康管理と医療体制

 第1部では、まず第1に、福島県弁護士会所属の渡辺淑彦実行委員・平岡路子実行委員による導入説明が行われ、原発事故による健康被害は放射線被ばくによるものだけでなく、長距離・長期間の避難による健康被害や生活環境の変化による被害、放射線や放射性物質の目に見えない恐ろしさにさらされる心理的不安といった、被害の多面性への言及がなされました。特に避難による健康被害は深刻で、市町村を越えた長距離避難によって高齢者等の避難弱者が犠牲になっている、長期化する日常生活の阻害が震災関連自殺者数の増加につながっているといった被害の現状が報告されました。

 第2に、東京大学医科学研究所特任研究員で、南相馬市立総合病院の内科医でもある坪倉正治氏から、南相馬市を中心に福島県内で診察を続けている経験を元にした、福島に住む人々が抱えている健康問題についての報告がありました。現在の制度・システムでは福島での健康被害の大きさを伝えることは困難であり、継続的な検査体制をどのように敷くのか、住民の検査への参加をどのように促していくのか、検査によって得られた医療情報をどう集約するのかといった課題も示されました。

 第3に、大分県弁護士会所属の中村多美子実行委員から、1979年に発生した米国スリーマイル島原発事故に関する現地の議論状況等の調査報告がなされました。報告の中で、法制度・法思想の異なる米国で議論されている問題を日本にそのまま持ち込むのは難しく、どのようにして米国で得られた知見を我が国の議論に統合するかが課題であるとの意見が示されました。

 第4に、岡山大学大学院教授である津田敏秀氏から、低線量被ばくの影響や疫学調査の重要性についての講演がなされました。講演では、被ばくの影響について正確な因果推論を得るためには、疫学調査の実施を義務づける法整備が必要であり、原子力損害についても食品衛生法58条が規定するような調査義務を設けることの必要性が強調されました。

 最後に、坪倉氏、中村氏、津田氏に広島弁護士会所属の足立修一実行副委員長を加えたパネリストによるパネルディスカッションが行われ、原発事故による健康被害を救済する援護法創設の必要性などが議論されました。

 原発事故による健康被害対策は、今後とも継続する必要があり、福島県外では、健康管理について全く対策も立てられていないのが現状です。このような状況を改善し、原発事故による健康被害対策を透明性の高い方法で制度化し、健康診断と一定の疾病に関する医療費を無料化する制度を実現する必要があります。

3 汚染水問題

 第2部では、まず福島第一原発の汚染水処理対策の現状について、横浜弁護士会所属の米村俊彦実行委員による視察報告があり、燃料デブリの取り出しに向けた政府の中長期マップの下、①汚染源に水を近づけない(地下水のくみ上げ、陸側遮水壁としての凍土壁の設置)、②汚染水を漏らさない(汚染水タンク・海側遮水壁の建設)、③汚染源を取り除く(他核種除去設備(ALPS)による浄化)という「3本の矢」の実施状況についての報告がなされました。

 次に、現在国及び東京電力が建設を進めている凍土壁が抱える問題を中心に、汚染水対策にどのような問題があるのか等について、専門家である佐藤暁氏(原子力コンサルタント、元GE原発技術者)、浅岡顕氏(名古屋大学名誉教授・元地盤工学会会長)をパネリストとするパネルディスカッションが行われました。佐藤氏、浅岡氏とも、凍土壁にはそもそも実現可能性と仮設性という2つの大きな問題があることを指摘し、当初予定から大幅に遅れている上に不完全な遮水性能しか有しない凍土壁では所期の目的を達成できない、いつか融けてなくなる凍土壁を形成した後の汚染水対策が何ら講じられていないといった問題点が示されました。また、政府の中長期マップには建屋のドライアップ、建屋内部の止水といった行程が謳われているものの、高線量下での作業の実行可能性や完工時期等が何も検討されていないという問題にも触れられました。

 国及び東京電力は、凍土壁設置を直ちに中止し、建屋への地下水流入を抑止し、汚染水の外部への漏出を防止することができる恒久的遮水壁を速やかに構築する必要があります。

4 放射性物質に汚染された廃棄物

 第3部では、はじめに千葉県弁護士会所属の山口仁実行副委員長から、汚染廃棄物をめぐる問題と日弁連の取り組みについての説明がありました。汚染廃棄物をめぐる問題については、放射性物質汚染への対処に関する特措法やその施行規則によれば放射能濃度が8000Bq/kg未満の廃棄物については一般廃棄物と同様の焼却や埋め立てができることとされている点に触れ、基準が緩やか過ぎ種々の問題があるとの指摘がありました。

 次に、関口鉄夫氏による指定廃棄物処分場候補地の選定に関する問題点についての講演がありました。講演では、急峻な傾斜地や農業用水・飲用水の涵養源である土地が処分場候補地に選定されるなど、安全・安心よりも反対運動をできるだけ小さくすることを優先した立地選定であることが疑われるとの指摘があり、現在の候補地選定結果は無条件に撤回すべきとの意見が示されました。

 最後に、処分場候補地を有する各地の自治体の長や住民らによる報告及びパネルディスカッションが行われ、処分場候補地の選定について住民説明会が住民意思を確認する場になっていない、市民意見が反映されていないといった指摘がなされ、実質的な住民参加を求める声が上がるなど活発な意見交換が行われました。

5 おわりに

 福島第一原発事故の問題は単発のシンポジウムで解決できる問題ではなく、来年の福井県での大会シンポジウムにおいても、引き続き原発の問題が取り上げられる予定です。