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「成年後見制度」から「意思決定支援制度」へ ~認知症や障害のある人の自己決定権の実現を目指して~

シンポジウム第2分科会
「成年後見制度」から「意思決定支援制度」へ ~認知症や障害のある人の自己決定権の実現を目指して~

会報「SOPHIA」 平成27年10月号より

会員 髙森 裕司

  1.  10月1日、標記分科会に参加した。2014年1月に障害者権利条約を日本も批准したことで、日本の成年後見制度の改革は不可避とされ、「意思決定支援」という言葉に対する注目度は高い。会場は当事者や支援者、弁護士で満員となり、少し遅れた私はインターネット中継の別会場に回らざるを得ないほどだった。
  2.  日本の成年後見制度は、本人が判断能力を「欠く」「不十分」というところを出発点とし、後見人等がそれを補うため意思決定を代行することになる。しかし、障害者権利条約12条は、あくまで本人が法的能力を「享有する」ことを前提とし、本人がその行使にあたって必要な支援を利用できるようにすることを国に求めている。
     日本の民法にも本人の「意思を尊重」(858条等)すると書かれてはいるが、どのように尊重するのか何ら規定も制度もなく、意思の尊重は後見人等の広い裁量に委ねられている。その結果、「保護」「擁護」の名のもと本人の意思の尊重が後退し、他者である後見人等が本人のために代行決定することが多い点が問題と指摘されるようになってきている。補助・保佐より後見の方が圧倒的に多いのは支援者側の都合ではないか、障がい者にも「失敗する権利」がある、等の声もある。
     今回のシンポは、日本の意思決定支援の現状を見つめ直し、本人の意思を尊重するため具体的にどのように意思決定を支援すべきかを、国内外の活動を参考にした上で検討する場となった。
  3.  シンポは、知的障がいと自閉症がある明石徹之さんの講演から始まった。明石さんは、清掃の仕事が好きで、頑張って公務員試験に合格し、昼は公務員として主に清掃関係の仕事に従事している。仕事が終わると毎日ホームヘルパーと買い物をして自分で夕食を作り、月に1回ガイドベルパーと遊びに行き、時には海外にまで講演に行ったり、旅行や趣味にお金を使ったりして充実した地域生活を送っている。次の夢は結婚して家庭をもつことだそうである。
     仕事やヘルパーを勝手にあてがうだけで、明石さんのように活き活きと生活できるわけではない。本人の意思を尊重し、その実現のために、支援者は何をすべきか、ここがシンポの提起した課題である。
  4.  次に、大阪弁護士会の井上雅人弁護士から専門職後見人等へのアンケート結果を基に、本人の意思尊重に問題意識をもって職務をしていることは窺えるが、そのような専門職後見人においてさえ、保護の観点を重視しすぎていないかなどの問題点も浮き上がったとの報告があった。
     さらに、岡山理科大学准教授の川島聡さんから「障害者権利条約12条における自律と差別」をテーマにした講演があった。12条の解釈として代行決定禁止説もあり、代行決定許容説に立つとしても許されるのはかなり限定的であって、12条4項の要件に照らして個別具体的に検証される必要があることが述べられた。
     両者の話から、本人の意思を尊重しているつもりであっても、さらに深く考える必要があること、法的にも抽象的に「本人のため」で安易に代行決定することが許されないことが示されたといえる。
  5.  では、どのように意思を尊重すべきか。ここで海外の2つの地域の取り組みについて報告があった。
     一つは、オーストラリアのサウスオーストラリア州における意思決定支援(SDMモデル)で、調査をした当会の松隈知栄子会員から報告された。SDMモデルは、意思決定者(Decision Maker)つまり障がいのある本人を中心に、トレーナー、見習いファシリテーター、サポーター、非公式ネットワークに属する人、サービス提供事業者、地域社会の人など6つの立場の支援者とともに、本人から表明された希望(犬を飼いたい、結婚したい、起業をしたい、など)を実現していくものである。最大の特徴は、他人が本人にとって最善の利益だろうと考えることを反映した意思決定よりも、本人の表明する希望を反映した意思決定を目指すところであろう。
     もう一つは、イギリスのMCA(意思決定能力法)の制度と実務について、イギリス留学をした水島俊彦弁護士からの報告である。MCAでは、本人が賢明でない判断をしたからといって直ちに意思決定能力の欠如とは見ず、一定の要件を充足する場合に限り他者による代行決定を許容し、その場合も「最善の利益」が何であるかについて支援者の行動指針が示されているとともに、一定の重大な意思決定についてはIMCA(イムカ・独立意思代弁人)が関与することが制度化されている。
     両報告は、非常に興味深いものであった。イギリスの制度は、日本の成年後見制度にも比較的取り入れやすい制度と言える。しかし、運用次第では、代行決定の正当性の言い訳に使われるだけとなる危険性も感じた。他方、オーストラリアの制度は、他人から見た本人にとっての利益ではなく、あくまで本人の表明する希望を前提として支援していく点で、とても魅力的な制度と言える。もっとも、日本の現状からすればいきなり標準化するには支援者側にかなりの意識改革が求められるであろう。
  6.  続いて、国内の活動として、「横浜市障害者後見的支援制度について」横浜市の担当課長山田洋さんから、「特定非営利活動法人PACガーディアンズの活動について」同法人理事長の名川勝さんから、「大阪市市民後見人の活動について」市民後見人の西永洋子さんから、「認知症高齢者の医療選択をサポートするシステムの開発等について」京都府立医科大学大学院准教授の成本迅さんから報告があった。これらは、現行の成年後見制度の下でも、本人を中心にすえた活動(定期的な訪問、まちの中の友だち、丁寧に意思疎通を図ること、医療現場での意思決定支援の方法)が、結果的に意思決定支援となっているもので、意思決定支援のあり方について示唆に富んでいた。
  7.  最後に、石川恒さん(社会福祉法人紫野の会理事・障害者支援施設かりいほ施設長)、桐原尚之さん(全国「精神病」者集団運営委員)、曽根直樹さん(厚労省地域生活支援推進室)、成本迅さん(前述)、佐々木育子弁護士(奈良弁護士会)をパネリストとしてパネルディスカッションが行われた。佐々木弁護士から日本での意思決定支援法としてシンポ実行委員会の試案について説明があり、それぞれの立場から、会場からの意見も交えて、意思決定支援のあり方について熱く意見が交わされた。
  8.  日本の成年後見制度が、本人の意思の尊重という点で、変わらなければならないこと、変わらざるを得ないことは間違いない。今後は、具体的な方法・制度論が議論されていくことになろう。その第一歩として、振り返ればターニングポイントとなるシンポジウムだったと言えるのではないか。