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シンポジウム第1分科会
「女性と労働」~貧困を克服し、男女ともに人間らしく豊かに生活するために~
シンポジウム第1分科会
「女性と労働」~貧困を克服し、男女ともに人間らしく豊かに生活するために~
会報「SOPHIA」 平成27年10月号より
会員 富田 隆司
今年は、日本が女性差別撤廃条約を批准して30年、男女雇用機会均等法を制定してから30年目の節目にあたる。30年前に1509万人であった女性労働者は、2436万人に増加した。しかし、増加した労働者の大多数が、非正規労働者である。30年前、女性労働者の3分の1であった非正規労働者の割合が、現在は5割を超え、経済的自立が困難な年収200万円以下で働く女性労働者は半数近くにおよんでいる。本シンポジウムは、女性が、性別と雇用形態の違いによる二重の差別を受けている実情、とりわけ勤労世代の単身女性や母子世帯が深刻な貧困にあえいでいる実態を浮き彫りにし、私たちが何をすべきかを考えることを目的としている。第1分科会は、第2、第3分科会と異なり、ホテルニューオータニ幕張で開催され、552名の参加があり盛況であった。
第1部
(1)基調報告
「女性労働者をめぐる日本の労働問題」と題して、静岡県弁護士会の丹羽聡子弁護士により、女性の貧困、女性の労働問題、働く女性に関する国際比較などにつき報告がなされた。
(2)基調講演
「女性と労働~働いているのに貧困から抜け出せない」と題する和光大学教授竹信三恵子氏よる講演。同氏は、日本は2014年度のジェンダーギャップ指数(世界経済フォーラム)が142カ国中104位であり、賃金格差、意思決定への参加度の格差、高等教育の男女格差があり、単身女性の3人に1人、単身女性高齢者の4割以上、19歳以下のシングルマザーの5割以上が貧困であると述べ、働く女性の57%が非正規労働者であることに関し「夫に扶養されているから、家事の片手間仕事だから、安くても不安定でも問題はない」という考え方が、非正規労働者の低処遇を放置し蔓延させたと指摘した。女性の貧困を食い止めるためには、標準労働者像の転換を基礎にした労働法改正等が必要であると提言した。
(3)海外調査報告(オランダ)
オランダは、男女ともにパートタイム就労の進んだワークシェアリングの国として知られている。栃木県弁護士会の杉田明子弁護士より、オランダで女性の就業率が上昇した要因が紹介され、オランダの労働法制、女性の権利保護、保護者の労働条件が子どもに与える影響などが報告された。
(4)特別報告
「女性差別撤廃条約批准30年」と題する国連女性差別撤廃委員会委員長を務める林陽子弁護士による報告。世界的には、女児の就学率向上、女性の政治参画の拡大、女性の就業率の向上、女性に対する暴力廃止に向けた施策の前進、差別的な家族法の改革など肯定的な変化が認められるが、日本においては、それらの変化が強く大きなものではないと述べられた。同氏は、男女の役割分担に対する固定観念を変えたり、女性が多くを占める職業の価値を適切に評価することによりジェンダーによる職業分離と賃金格差を縮小させることが必要であり、また、最低賃金引上げ、家族・子ども手当などにより女性の経済的不利を是正し、年金制度を改革して、高齢女性の収入保障を確保するなどして、ライフサイクルを通じた女性の所得保障を強化し、さらに、育児・介護休暇を非正規労働者を含めたすべての人に利用可能にし、男性による育児・介護休暇取得を促すインセンティブを設けるなどして、無償の介護・育児・家事労働の軽減と責任の再分配の必要性、重要性を訴えた。
第2部
(1)特別講演
イオンリテール(株)執行役員を務める三宅香さんは、企業の風土・文化を作るのはトップであり、同社の社長は会議体には必ず女性を入れることを徹底していると紹介した。また、女性自身も意識を変えていく必要があると指摘した。
(2)当事者発言
NPO法人マタニティハラスメント対策ネットワーク(マタハラNet)理事である宮下浩子さんは、自身が妊娠出産により退職扱いとされ裁判をした経験を紹介し、「マタハラ」が死語になるときがゴールだと意欲を示した(VTR出演)。宇山洋美さん(仮名)は、派遣労働者の立場で経験を語った。シングルマザーであるがゆえに仕事を選べず、その都度就業が可能な職を転々とし、40歳から派遣労働者となった。以降15年間にわたり更新を繰り返してきたが、今年5月、3年後の雇い止めを通告された。「改正」派遣法は、派遣先企業にとっては「使い捨ての合法化」、派遣労働者にとっては「3年ごとの失業」を恒常化させるものだと批判した。Londonさん(仮称)は、キャバクラユニオンのあるフリーター全般労働組合執行委員であり、自身や知人が経験したスナック等における過酷な労働条件、パワハラ、不当解雇の実情を紹介し、弁護士も意識を変えて欲しいと訴えた。
(3)支援者団体
NPO法人インクルいわては、東日本大震災により孤立状況にある「ひとり親世帯」を支援する団体である。理事長の山屋理恵さんは、ひとり親世帯の現状、シングルマザーの就労問題を紹介し、必要な就労支援を語った。就労支援の前段階として、ひとり親のニーズを把握することが重要であると述べ、余裕のないひとり親が相談しようと思える環境作りが紹介された。
(4)特別講演
女子高校生サポートセンターColabo代表の仁藤夢乃さんからは、大人たちの性の対象にされる女子高校生の実情、被害が生々しく紹介され、少女にとって必要なのは、衣食住と関係性(関わり、つながり)であり、そのために行っている夜間巡回、食事提供支援、少女が駆け込める一時シェルター(部屋)の提供などの活動が紹介された。
第3部 パネルディスカッション
パネリストは、安藤哲也さん(NPO法人ファザーリング・ジャパン代表理事)、中嶋祥子さん(東京公務公共一般労働組合中央執行委員長)、藤原千沙さん(法政大学准教授)、山田省三さん(中央大学法科大学院教授)。安藤さんは、イクボスプロジェクト(職場の部下・スタッフのワークライフバランスを考え、その人のキャリアと人生を応援しながら、組織の業績面でも結果を出しつつ、自らも仕事と私生活を楽しむことができる上司を推進する)を紹介し、男性の働き方も変えるべきと説いた。中嶋さんは、劣悪な環境にある非正規(臨時・非常勤)公務員における女性の割合は極めて高く、非正規公務員の劣悪な実態は、そのまま女性に対する差別になっており、国、自治体の考え方も変わる必要があると訴えた。藤原さんは、男女賃金格差の推移について、1980年には58.9であったのが(男性の賃金を100)2014年には72.2になり格差は小さくなったと言われるが、その統計はフルタイムの「一般労働者」の数値であり、全ての労働者である「常用労働者」の統計では1980年が54.6、2014年は55.2であり変わっていないと指摘した。実態を正しく見た上で、賃金の引上げや社会保障の充実を図る必要があると訴えた。山田さんは、ワークライフバランスの重要性を述べ、長時間労働を解消するには業務量を制限する必要があるとした。また、男女雇用機会均等法9条4項の意義を確認し、立証責任の振り分けを見直す必要性を説いた。
さいごに
現に存在する女性の貧困、働いても抜け出せない貧困があることを認識し、必要な施策を策定し実行していかなければならない。当会も、男女共同参画施策基本大綱が定められた。弁護士会が率先して果たすべき役割を確認するためにも男女共同参画推進本部のこれからの活動に期待したい。