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~明石市役所訪問と兵庫県弁護士会 及びひょうご被害者支援センターとの意見交換

犯罪被害者支援に関する取り組みを訪ねて  
~明石市役所訪問と兵庫県弁護士会 及びひょうご被害者支援センターとの意見交換

会報「SOPHIA」 平成27年9月号より

犯罪被害者支援委員会委員
佐藤 万里奈

1.はじめに

 9月4日、当会の犯罪被害者支援委員会は、犯罪被害者救済に根差した条例を制定していると言われる明石市役所を訪問し、その後、兵庫県弁護士会の犯罪被害者支援委員会及び公益財団法人ひょうご被害者支援センターと意見交換を行いました。

2.明石市役所の犯罪被害者等支援条例

 犯罪被害者及び被害者遺族(以下、「被害者等」と表記。)に対する法的な支援として、平成17年に犯罪被害者等基本法が制定されました。しかし、当該法律だけでは立場の弱い被害者の救済には不十分であると考え、明石市は平成23年に犯罪被害者等支援条例を制定しました。今回、私たちが明石市を訪問した理由は、平成25年に改正され、平成26年4月1日から施行された内容が、被害者救済のために画期的なものであったからです。
改正内容は主に、①立替支援金制度の創設、②「二次的被害」の被害者を支援対象に位置づけ、③日常生活支援の拡大、と分けられます。特に注目されているのは、①であり、この規定は、被害者等が加害者に対する損害賠償請求で勝訴の確定判決を得るなど債務名義を取得した場合に、市が当該請求権を被害者等から譲り受けるのと引き換えに立替支援金を被害者等に支払い、市が譲り受けた債権を加害者に対して行使するというものです。

 市が被害者等から債権譲渡を受けて、以後債権者として加害者に対して債権を行使して回収するという手法は、市が被害者等の支援者という第三者的立場から、債権者という当事者になるという点で、類をみない規定であり、注目を集めました。
もちろん、無制限に犯罪被害者等の全てに適用されるわけではなく、明石市民であり、①故意によって人が殺されたような重大犯罪であり、②譲り受ける債権の上限は300万円まで、などの制限が設けられています。

3.明石市長及び職員による条例の説明

 当日は、犯罪被害者等支援条例の制定に尽力された泉房穂明石市長及び職員の方から条例制定及び今回の画期的な改正に至った背景・経緯について説明を受けました。
 泉市長は元々弁護士として活躍しており、現在は明石市長として尽力されています。まず、市長が犯罪被害者の支援に意識をもつようになった背景には、犯罪被害者等基本法が制定されても、①民事訴訟において損害賠償判決を勝ち取っても実際に加害者から金銭を得ることは難しく、経済的な支援が不十分であること、②被害者等が犯罪被害に遭ったことをきっかけに起こるメディアスクラム等の二次被害への対応が不十分であること、を感じ、条例で実効的な対策を定めることができないかという意識があったとのことです。

 そのような意識のもとで条例は制定されましたが、より救済の手を拡げるため前述の改正が行われました。この改正により、市に対して二次被害の発生防止について責務を課すともに市民等に対しても発生防止に配慮する責務をおいていたことから、元犯罪加害者が出版した書籍に対し、条例上の根拠に基づいて、明石市は市立図書館での購入不可、書店に対して配慮を求める要請を出しました。この問題については表現の自由との関係もあり、どのように対応するか悩まれたとのことですが、条例は遺族の意思尊重の責務を負うとの観点から決断に至ったとのことです。
 また、立替金制度は被害者等が長年にわたり強く要望していた制度であり、市長のお話からは、当事者の思いをかたちにすることを考えて条例を制定・改正していくことが最も大切であるとの決意が強く感じられました。 

4 今後の課題

 改正条例は施行されてから間もなく、該当する事案が発生していないため、注目されている立替金制度が実際にどのように機能していくかは未知数であり、債権回収の実効性をどこまで挙げられるかは今後の課題であるとのことです。また、日常生活支援制度についても、肉体面ではなく精神的な不調のような「支障」の有無を判断しにくいケースの場合に、どこまで適用するかなど今後の運用の中で課題が出てくることが予想されます。
 もっとも、市長は、条例で、すなわち自治体でできることには限界があり、大事なことは自治体も弁護士会も含めたネットワークを形成することであると話されていました。

5 兵庫県弁護士会の被害者支援委員会と及び被害者支援センターとの意見交換

 明石市役所の訪問後、私たちは神戸市に移動し、兵庫県弁護士会の犯罪被害者支援委員会及びひょうご被害者支援センターとの間で、各々の活動の意見交換と各会の弁護士が扱った事例の検討を行いました。
 まず、当会の被害者支援活動の中でも大きな特徴として、重大犯罪の場合に被害者等に対して1回無料で弁護士を派遣し、刑事裁判手続の説明や助言等を行う制度(被害者支援弁護士派遣制度)を説明しました。当該制度は、犯罪発生後早い段階で弁護士が介入し、刑事裁判の説明や今後のマスコミへの対応を行う必要があるという目的のもと昨年度から始まった制度です。刑事弁護における当番弁護士の被害者版に相当する制度といえます。

 他方で、兵庫県弁護士会では、無料法律相談において、最初は電話相談で対応する当会とは異なり、直接面接する形で毎週相談を行っています。また、昨年2月には、被害者参加弁護士と刑事弁護人の相互理解を深めるという意識のもと、刑事弁護センターと犯罪被害者支援委員会との合同研修会が開催され、その内容は一般書籍で出版化されています。弁護士は刑事弁護人にも被害者代理人にもなりえますが、刑事弁護と被害者支援は相反するものではなく、相互に理解を深め、より良い支援にも弁護活動にも繋げることが望まれるという意識のもとで上記の研修会等は開催されました。

 また、ひょうご被害者支援センターは、弁護士会、検察庁、警察と上手く連携をとって被害者等に対する対応・支援を行っているとのことです。特に連携の良さを感じたのは、重大事件が発生したときに、被害者の代理人となった弁護士の介入のもと、事件発覚の翌日には警察、弁護士、支援センター、神戸市、その他葬儀会社までも含む関係者が一堂に会して、今後の対応について共通理解を図り、数か月後には被害者等のカウンセリングも行うことができたという話でした。事件発生の翌日に関係者全員が集まることができるというのは普段から連携がとれていなければ不可能なことであり、驚くとともに、当地区においてもこのような連携がとれるためにはどうすればよいのか考えるに至りました。

6 最後に

 画期的な条例や他会の活動を知る目的の訪問でしたが、画期的な条例の存在や制度・活動があるだけでは不十分であり、立場の違う者同士が相互に理解を深め、各機関での連携を普段からとるために尽力することが一番大切であると感じました。今回の視察で感じたことを今後の活動に活かしたいと思います。

活動写真