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「地域から考えるエネルギー政策~  再生可能エネルギーが未来をつくる~」開催される

日弁連第58回人権擁護大会プレシンポジウム
「地域から考えるエネルギー政策~  再生可能エネルギーが未来をつくる~」開催される

会報「SOPHIA」 平成27年9月号より

公害対策・環境保全委員会 委員
伊東 正裕

1.はじめに

 9月6日午後2時から午後5時過ぎにかけて、栄ガスビル「栄ガスホール」において、標記のシンポジウムが開催された。
 今回のシンポジウムでは、当会が開催した「どうする浜岡原発」(2012)「核のゴミとどう向き合うか」(2013)「福島原発事故の教訓は生かされているか」(2014)の3つのシンポジウムをふまえ、原子力発電に代わるエネルギーとしても注目される、再生可能エネルギーについて、その施策状況や今後の可能性などに関する報告や議論が活発に行われた。

2.主催者からの導入報告

  • (1) 議論に先立ち、主催者からの導入報告がなされた。導入報告前半では、再生可能エネルギーが今必要とされている理由について、小島寛司会員から報告がなされた。
     福島原発事故後の原発再稼働の問題では、大きく、規制基準の問題と、使用済み核燃料の問題とが存在する。過去のシンポジウムでは、これらに関する検討を加えてきた。
     こうしたなか、原発に代わるエネルギーとして注目されているのが、再生可能エネルギーである。
     再生可能エネルギーの特長は、枯渇がない点、日本でも自給の余地がある点、温暖化対策や環境負荷低減の面で優れている点等である。一方で、大規模な設備を必要とする、発電が不安定である、コストが割高であるといった問題点がある。
     しかし、ドイツでは、設備投資は、経済活動の活発化や輸出促進につながるととらえ、発電の不安定さに関しては、需要予測や相互補完、蓄電池の導入や節電等の施策により対応した。また、コストに関しても、今後、従来電力以下のコストになるとの予測が出されている。なお、発電コストには表れない隠れたコストの問題がある。例えば、福島原発事故による損害額は48兆円とも言われるが、発電コストを考える上では、こうした隠れたコストの存在も無視できない。これらをふまえたエネルギー政策が今求められている。
  • (2) 導入報告後半では、再生可能エネルギーに関する国の政策の現状について、藤川誠二会員から報告がなされた。
    戦後の我が国のエネルギー政策の歩みを、戦後の原子力政策の動向から概観し、その上で、福島原発事故後に関するエネルギー政策について、民主党政権下の政策動向、自民党政権下の政策動向、今後の動向や各自治体の動きなどから、原子力政策と再生可能エネルギーその他のエネルギーの政策上の位置付けについて報告がなされた。

導入報告

3.基調講演

 名古屋大学大学院教授の竹内恒夫氏より、主としてドイツにおける再生可能エネルギー等の導入状況とそのための制度づくりの内容についての講演がなされた。エネルギー行政の権限について、ドイツでは国以外の州や市町村にも一部権限がある実態や、米独日での地方公営電気事業者の状況についてもお話があった。さらに、コージェネレーション(電熱併給)の取り組みについて、ベルリン州やトリノ市における具体例のほか、名古屋駅付近での取り組みについても解説がなされた。
 そして、エネルギー政策への住民参加について、複数の都市での事例等に触れながら、日本や愛知県内における各自治体の取り組み状況などについて講演いただいたほか、EUにおける「市長誓約」(二酸化炭素削減目標を市長が自主的に誓約し、持続可能なエネルギー行動計画を策定する)の動きについての解説、日本版「首長誓約」の提案等がなされた。

基調講演

4.パネルディスカッション

  1.  前出の竹内氏、前札幌市長の上田文雄弁護士、おひさま自然エネルギー株式会社代表取締役の平沼辰雄氏をパネリストに迎え、当会の前出藤川会員、家田大輔会員がコーディネーターとなってパネルディスカッションが行われた。
  2.  上田氏から、まず、上田氏が携わった「札幌市エネルギービジョン」の内容や策定経緯、その後の状況等に関する説明がなされた。
  3.  次に、平沼氏から、市民ファンドによるエネルギーの地産地消、地域経済の活性化の取り組みについて、愛知における取り組み事例等を中心に報告がなされた。
  4.  その後のパネルディスカッションでは、札幌市での取り組みに関し、日本とドイツの再生可能エネルギー政策の比較の観点からの発言(竹内氏)、市民自治の考え方やその意義、地域を巻き込んだ取り組みの必要性についての発言(平沼氏、上田氏)がなされた。
     また、地域の再生可能エネルギー導入の取り組みを国内に今後広げる際の課題として、補助金に依存せず市民活動促進条例による寄付金の再配分の仕組みを確立した札幌市の事例(上田氏)、ミュンヘンにおける市民の分別意識、市長誓約実施に伴う同制度のインセンティブの仕組み等(竹内氏)の発言があった。愛知県内での活動事例から、行政や企業、金融機関はもう一歩進んだ取り組みが必要であるとの発言(平沼氏)もなされた。
  5.  会場からの質問とパネリストとのやり取り(抜粋)は以下のとおり。
    •  ドイツより日本は脱原発が進んでいないと思うが、消費者としてどう取り組むべきか?
      ―電力自由化で今後は電力の取引市場での調達が進む。消費者の電力選択が可能となる。今後は、コージェネレーションや再生可能エネルギーに特化した会社の必要性が出てくる。取引市場において発電原因が明示されないなどの問題が今はあり、検討が必要である。
    •  自治体がエネルギー政策に取り組むインセンティブには何があるか?
      ―市民の支持である。市民の支持により自治体が真摯に取り組むことで、様々な問題を解決する力が市民にもまた育っていく。
    •  原子力推進の政府の考えと、電力自由化は矛盾するのでは?
      ―電力自由化が進む国においても、イギリスのように原発支援策を行う国もある。企業は安価であれば原発に乗り換えることも十分考えられる。注意が必要である。
    •  再生可能エネルギーによる環境問題は?
      ―太陽光で言えば、太陽光パネルの廃棄問題のほか、反射(光)の問題など、様々な問題はある。これらの問題点をよく説明し、一方でどれだけのメリットが(地域に)あるのかという点もふまえ、(地域住民の)理解が得られるかどうかが重要である。