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子どもの事件の現場から(145) 取り戻せた親子の絆

会報「SOPHIA」 平成27年7月号より

子どもの権利委員会
委員 箕浦 香代子

  1.  67期として司法修習を終え、昨年12月に弁護士登録してから半年、この間に3件の少年事件に関わることができました。
     少年事件は数がそれほど多くないため、待機日であっても回ってこないことが往々にしてあると聞いていました。しかし、2月にはまず、研修としての共同受任をさせて頂く機会に恵まれ、4月から割り当てられた待機日にも、現在のところ、毎回、担当依頼のFAXが流れてきており、弁護人・付添人としての貴重な体験をさせて頂いています。
     今回は、3回という少ない回数ではありますが、最も印象に残った事件についてご紹介します。
  2.  初めての単独での担当事件は、窃盗保護事件でした。定時制の高校生だった少年は、被疑者として勾留されていましたが、私が会いに行くとすぐ、「早く学校に戻りたい」と言いました。最初は、早く学校の友人に会いたいという意味なのかと思いましたが、よくよく話を聞いてみると、授業に遅れをとりたくないということでした。
     少年は、勉強すること自体は嫌いではなく、特に英語を勉強し、将来は大学に進学して留学もしたいという夢を持っていました。しかし、少年の通っていた中学校が、教育熱心な保護者の多い学区にあったということもあり、少年は、中学に入った頃から、成績が悪くなり、そのことから級友と距離を置くようになりました。同時に、教育熱心な両親や、成績の良い姉妹の存在から、家の中でも居場所を失っていくような気持ちになり、学区外の友人たちと夜遊びをするようになったのです。
     少年の両親は、そんな少年のことを非常に心配していましたが、他方で、少年のことを、勉強嫌いで将来の夢もなく、ただ悪い友人と深夜まで遊んでいるだけとしか思っておらず、そのような少年とどのように接したらよいのか分からなくなっていました。そして、私が、両親に対し、観護措置をとらないよう意見はするけれども、通らない可能性も高い、通らないと約1ヶ月身柄拘束されることになる等の見通しを説明すると、両親の口からは、観護措置をとってもらってよい、その間に反省させ、教育もしてもらいたいという言葉が出てきたのです。
     私としては、両親が少年のことを煙たく思っているためにそのようなことを言っているのではないと感じたので、両親の言っていることも間違ってはいないと思いました。しかし、そこで思い出したのは、弁護修習での講義の際、付添人はあくまで「少年」の味方であって、必ずしも「親」の味方ではないという講師の先生の言葉でした!
     少年の両親は、当初は、身元引受書は書けない、と言っていましたが、身元引受書の内容を変更したり、何度も説明し、お願いしたりして、ぎりぎりのところで、ようやく書いてもらうことができました
     その後、努力もむなしく、結局、少年には観護措置がとられてしまいましたが、少年は、鑑別所内で、両親から差し入れられた問題集を解き、鑑別所にある教科書を2回もノートに書き写す等、とにかく勉強していました。そして、両親には、自分の夢を、きちんと自分の口から話すことができました。そのおかげか、少年と両親は、最終的には互いの信頼を取り戻し、審判では、両親から、少年に対する心強い支援の言葉と監督を約束する言葉を聴くことができました。