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平成26年度 人権賞 梅尾朱美さんに決まる

会報「SOPHIA」 平成27年1月号より

人権擁護委員会 人権賞小委員会 委員
今泉 麻衣子

 平成元年に創設された人権賞は、人権救済や人権思想の普及その他人権 擁護のための活動をしている個人・団体を表彰するもので、本年度で26回を数えます。例年、広く一般市民から候補者の推薦を受けており、本年度は、6候補 者(個人1名及び5団体)の推薦がありました。各候補者については、当小委員会委員が各候補者の調査を行った上で、学識経験者等の外部委員と当会会員から なる選考委員会が審査を行い、その年度の受賞者を決定しています。

 本年度の人権賞は、梅尾朱美さんに決まりましたので、その活動についてご紹介いたします。

平成26年度 人権賞 梅尾朱美さんに決まる

梅尾さんの生い立ちなど

 梅尾さんは、生後10か月のときに両目の視力を失い、子どものころから、「ふつう」に生活することはかなわないとあきらめていました。

 そんな中、盲学校の友人に誘われて、愛知視覚障害者協議会(愛視協) の集まりに参加し、これまで、「ふつう」に生きていくためには欠かせないことであるにもかかわらず、視覚障がいがあるのだからできるわけがないとあきらめ ていたことを、本当は実現したいと考えている仲間がたくさんいることを知り、すぐに入会を決めました。

 そして、愛視協の例会 で、視覚障がいのない人にとっての「ふつう」が、いまだ視覚障がい者にとって「ふつう」ではないことが、視覚障がい者以外には容易に気付くことができない ことや、それに気付いてもらって現状を変えていくために、どのように活動したらよいか、話し合うようになりました。

梅尾さんが行ってきた活動

 梅尾さんは、愛視協の中心メンバーとして、また、個人としても、視覚障がい者の「ふつう」の生活を実現するため、様々な活動をしてきました。その中で、主なものをご紹介いたします。

(1)母子手帳の点字解説書について

 昭和59年に、梅尾さんは、同 じく視覚障がいのある夫との間に、長男を授かりましたが、子どもの成長度合いの標準や、子育てに悩んだらどこに相談したらよいのかなど、子育てについての ごく基本的な情報も得られず、本当に子どもを育てていくことができるのかと悩み、追い詰められる経験をしました。

 後日、このような基本的な情報は、保健所で交付される母子健康手帳に書かれていることを知ったのです。

 そのため、視覚障がい者が子育てをするにあたり、基本的な情報を得られるようにしたいと、梅尾さんが中心となり、愛視協を通じ、行政に対して、母子健康手帳の点訳を求めました。

 当初は、愛知県も、名古屋市 も、対応を取ってはくれず、「母子健康手帳は医師や看護師らが読むもので、親が読めなくても問題はない」とまで言われたこともありました。ですが、粘り強 く要望を続けた結果、平成元年11月に、名古屋市が、全国初の母子健康手帳の点字解説書を作成しました。

 この動きは全国に広がり、平成6年には、厚生省から全国一律の点字の母子健康手帳が発行されるに至りました。

(2)点字訴訟

 梅尾さんの活動として、最もよ く知られているのは点字訴訟ではないでしょうか。平成22年に、名古屋地裁に点字の訴状を提出して受理され、その後の準備書面も点字での提出が認められま した。また、同訴訟では、裁判所から、被告に、準備書面の点字化に協力するよう要請をし、一部の被告提出書証については、裁判所の費用で点訳が行われるな ど、極めて異例の配慮がなされました。

 点字で訴訟を行った理由とし て、梅尾さんは、平成18年に提訴した別の裁判で、裁判所に、視覚障がい者の仲間が点字で書いた意見書について、点字であることを理由に、「読むかどうか は裁判所が決める」と言われたことを挙げ、「点字を文字として認めてほしかった」とおっしゃっていました。

 この裁判は、日弁連が平成25年2月15日に提出した「民事訴訟手続における障がいのある当事者に対する合理的配慮についての意見書」にも取り上げられており、今後、視覚障がい者が自ら訴訟を起こす道を開いたものと評価することができます。

(3) その他

 また、名古屋の市バスの車外に向けた行き先などのアナウンスも、梅尾さんも関与し、愛視協が申し入れを行った結果、昭和54年に実現したものです。名古屋の市バスが車外アナウンスを取り入れたのは、全国的に見ても早い時期だったとのことです。

 地下鉄ホームの可動柵についても、平成4年頃から、梅尾さんも中心となり、名古屋市、JR、私鉄等に、愛視協として、設置の申入れを行い、20年以上の時を経て、一定の成果を得ています。

梅尾さんの活動の意義

 梅尾さんは、自分自身や、友人・知人の視覚障がい者が感じた不便や戸 惑い、怒りなどを原動力とし、いかにして、視覚障がい者が「ふつう」に生活していくことができる社会を実現するか、という観点から、40年以上にわたり、 官公庁等、多くの関係先と協議を重ね、自分たちの感じている不便さや戸惑いを、ひとつひとつ説明することで、世の中を動かしてきました。

 このような視点は、愛視協を通じての活動でも、個人として、点字裁判を起こしたときも、変わることはありません。

 社会的に弱い立場にある視覚障がい者の方が少しでも暮らしやすくなるよう声を上げ続けるという行動は、権利実現に向けた先駆的な活動と評価されるべきものであると感じます。