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子どもの事件の現場から(264) 子どもだけで調停!? 学校運営に参加!? フィンランドの「普通の」学校訪問記

会報「SOPHIA」令和7年7月号より

子どもの権利委員会 委員 間 宮 静 香

1 3月10日から16日まで、教育行政学の研究者の方々とフィンランド視察に行ってきました。視察先を決める際、「普通の学校に行きたい」とオーダーしました。「普通の」学校でも子どもの権利があらゆる場面で保障されていたことに感銘を受けましたので、ご紹介します。

2 私が行ったのは、ヘルシンキから電車で30分程度のキルッコヌンミ市にあるニッスニクン小中学校です。小中学校の児童生徒合計560人、教員60人+校長2人の学校です。この時点でおわかりになると思いますが、日本に比べて圧倒的に教員が多いです。クラスサイズは15人から30人程度で、30人のクラスには教員が2人入ります。それに加えて、教員以外の職員として、青年ワーカーという自治体職員、不登校支援などを行うスクールコーチ、学校保健師、学校心理士、スクールソーシャルワーカー、学習指導員などがいます。なお、中学校舎は建て替えのための仮校舎でしたが、エレベーターが設置され暖房完備でした。これだけでも教育にお金をかけない日本の現状が悲しくなります。

3 廊下には、「私には権利があります」、「子どもの権利は大人の責任である」、「すべての子どもには学ぶ権利がある!」というポスターが貼ってあります。子どもに学ぶ権利があるというポスターには「学習は日常生活のあらゆるところで行われます」、「学習経路は人それぞれに異なります」などと書かれていました。

4 特筆すべき1点目は子ども参加です。その手段のひとつが生徒会です。10人の生徒で構成される生徒理事会を通じて、学校運営に意見を述べます。最近では、学内のスマホルールの見直しや、学校の校舎新設にあたって意見を述べ反映させたということでした。校長は「生徒の声を必ず聴いて学校運営に反映させる」、生徒は「意見を言うと確実に反映される」と言っていました。また、校内の運動委員会やIT委員会などの各種委員会では教員だけではなく生徒も委員になっており、あらゆる学校運営の決定に生徒の意見が反映される仕組みとなっています。

 日本でも2023年にこども基本法が施行され、教育施策についても子どもの意見を聴かなくてはならないことになりましたが、一体どれだけの学校や教育委員会が実践しているのでしょうか。「子どもに関わることなのだから子どもに聴くのが当たり前でしょ?」という校長の言葉に、フィンランドでは子どもの意見を聴かれる権利(子どもの権利条約12条)が文化になっていると感じました。

5 2点目は、生徒同士や生徒と教師間のトラブルがあった場合の対応です。悪口を言われた、仲間はずれなどの生徒同士のトラブルは、訓練を受けた生徒が調停委員となる"Verso"というピア・メディエーションで、相手を責めるのではなく、生徒間で解決策を探します。日本ではすぐに大人が介入しがちですが、"Verso"のポスターには「紛争の所有権は当事者にあります」と書かれており、子どもが主体となっていることがわかります。

 "Verso"が不調のときや、重いいじめ、教員との関係性が問題となる場合は"Resoto"という訓練を受けた教員が調停委員となる調停を受けることもできます。

 いずれにせよ、子どもを主体として対話の中で解決を目指していくその姿勢がうらやましく思いました。