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犯罪被害者自助グループ「緒あしす」に決まる

平成25年度人権賞
犯罪被害者自助グループ「緒あしす」に決まる

会報「SOPHIA」 平成26年1月号より

人権擁護委員会 人権賞小委員会 委員 石川 明子

 平成元年に創設された人権賞は、人権救済や人権思想の普及その他人権 擁護のための活動をしている個人・団体を表彰するもので、本年度で25回を数えます。例年、広く一般市民から候補者の推薦を受けています。各候補者につい ては、人権賞小委員会委員が調査を行った上で、選考委員(学識経験者等の外部委員と当会会員で構成)が審査します。

 本年度の人権賞は、犯罪被害者自助グループ「緒あしす」への授賞が決まりましたので、その活動について紹介します。

平成25年度人権賞 犯罪被害者自助グループ「緒あしす」に決まる

1 活動内容

 「緒あしす」は、平成12年に発足した殺人事件遺族のための犯罪被害者自助グループです。月1回の定例会や、専門家を招いた勉強会といった内部的活動のほか、被害者支援の企画を主催したり、各所で講演を行う等の外に向けた活動も行っています。

2 発足の経緯

 「緒あしす」代表の青木聰子さんは、平成9年に殺人事件で両親を喪っ た被害者遺族の一人です。全く面識のない覚せい剤常習者が自宅に侵入し、青木さんの両親を殺害した上、現金を盗んで逃走したという事件でした。事件後、悲 しいという気持ちも湧かず感覚が麻痺したまま時間を過ごしていた青木さんが、気持ちを切り替える契機となったのは、公判で証言台に立ったことでした。心の 奥底に溜まった様々な思いを吐き出すことの大切さ、それを受け止めてくれる存在の必要性を痛感したそうです。また青木さんは、自身の夫が事件の加害者とし て警察から疑われるという現実に接したり、報道関係者から葬儀の際にカメラを向けられたり、夜遅く近所を訪ねられるなどの場面に直面し、犯罪被害者が極め て弱い立場にあるにもかかわらず、二次被害にあうという不条理を実感されました。その頃、富山で活動する被害者団体の存在を知って足を運ぶようになり、 「もっと近くに被害者同士が語り合える場があれば」と考えるようになりました。そして、東海地方では初めてとなる犯罪被害者自助組織の発足を決意し、愛知 県警の犯罪被害者支援室や、公益社団法人被害者サポートセンターあいち、全国の被害者団体などの支えを受けて、「緒あしす」の発足に至ったとのことです。 いわゆる犯罪被害者保護二法が施行された頃でした。

3 活動の特色

 「緒あしす」の根幹的な活動は、原則月1回開かれる定例会です。定例 会では、希望する参加者が集まり、誰にも遠慮することなくありのままの気持ちを話し、体験や希望を分かち合うとともに現実の対処方法を考えていきます。多 くの被害者遺族は、刑事手続等の知識を持っていないため、関連する法的制度や、事件によってはマスコミへの対応等、現実に対応するための情報交換や勉強の 場にもなっているのです。弁護士や臨床心理士等、犯罪被害者支援に携わっている専門家を招いて話を聞くこともあります。こうした活動を通じて広がった専門 家や全国の被害者支援団体とのネットワークも、「緒あしす」の財産です。

 また、犯罪被害者が置かれた状況等について広く社会に知ってもらい、 考えてもらうための啓蒙活動も行っています。年1回、犯罪被害者支援週間にあわせて被害者支援企画「いのちかなでる」を主催し、パネルディスカッションや コンサート等のイベントを通じて被害者の思いを発信しています。近年は、200人前後を動員しています。その他、被害者の生前の姿を伝えるパネル展を市町 村役場等を巡回して行ったり、被害者支援拡充のための街頭署名活動、「緒あしす」参加者の手記を収録した書籍の出版なども行っています。

 代表の青木さんは講演活動も精力的に行っておられ、警察署や刑務所、 裁判所等に招かれて被害者と接する職員を対象とした講演を行ったり、大学で法学や心理学を専攻する学生向けに講師を務めることもあります。当会においても 研修会で講演をしていただく等しており、最近では、会報2013年11月号に犯罪被害者支援委員会委員による青木さんへのインタビュー記事が掲載されまし た。

 以上のとおり、「緒あしす」では、参加者相互の助け合い、分かち合いの活動だけではなく、社会に向けた啓蒙活動も行っています。

4 活動の意義

 犯罪被害者は、突如その立場に置かれたときから、やり場のない感情や 喪失感を抱えつつ、一方では加害者や事件と向き合って慣れない裁判等に対応することを迫られ、他方では従前の社会生活も維持していかなければなりません。 その過酷な状況の中、当事者でしか分かり合えない部分をケアし、癒しの場を提供すること、また現実に対処するための方策を考える場を提供することによっ て、「緒あしす」は、被害者遺族の方達の拠り所として機能してきたといえます。「緒あしす」の活動に参加した方からは、「同じ立場の人だからこそ話せるこ とがあった」との声が多く寄せられています。

 また「緒あしす」は、発足以来犯罪被害者の立場を世間に伝える活動を行ってこられましたが、被害者自身が声をあげ、啓蒙の担い手となることの意義は大きいといえます。

5 最後に

 発足から約13年、地道に活動を続けてこられた結果、月1回の定例会は130回以上を数えました。

 参加者の中には、裁判が終わってひと区切りがつき、「緒あしす」の活 動から遠ざかっていたものの、"犯人が出所するらしいと聞いた"など何らかのきっかけにより、年数を経て再び訪れる方もいるそうです。話ができる場所が存 在し続けているということ自体が、多くの被害者遺族にとって大きな支えとなっていると思われます。「緒あしす」は、発足間もない頃より3回、本人権賞の候 補者に推薦されており、4回目の推薦を受けた今年度受賞に至ったのですが、そうした活動の継続性も受賞の一因であったかと思います。  今後については、NPO法人化の構想もあり、活動を拡充させていきたいとのことです。今回の受賞をきっかけとして、「緒あしす」が更なる活動の広がりを 見せ、活動を続けていかれることを願います。