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子どもの事件の現場から(258) よりそい弁護士活動少年の両親との歩み
子どもの権利委員会 委員 近 藤 沙 織
私が薬物事犯の少年を担当し、よりそい弁護士制度を活用した事件の話です。
少年は就職して仕事をしていましたが、その仕事のストレスなどを、覚醒剤及び大麻という薬物を使用することで解消し、その使用歴は2年以上にも及びました。少年は、当時、薬物による身体的な不調は生じていなかったものの、週に1度は薬物の売人から薬物を購入しており、薬物依存傾向が進んだ状態でした。
少年は審判で少年院送致となり、その後はよりそい弁護士として、少年の支援にあたりました。
少年の両親は、自分の子どもが薬物に手を染めているとはその間、全く気が付かず、少年が薬物事犯で逮捕勾留されたことを大変驚いていました。また、少年の両親は、薬物に関する知識が乏しかったため、薬物使用が犯罪であることは理解しているものの、薬物使用の怖さや危険性といったところまでは、よくわからないといった状況でした。
少年の両親は、母国語を外国語とする外国籍の方でした。日本での生活が長いので、日常会話程度の日本語を聞き取り、話すことは問題ありませんでしたが、読み書きは苦手だということでした。
そこで、少年の両親に対し、日本語で書かれている薬物依存症のリーフレットを平易な日本語に言い換えながら、薬物の効能や危険性など、ひとつひとつ説明しました。
例えば、薬物は依存性が強く、自分の意思のみでは簡単にやめることが難しいこと、薬物を使用し続けると、心身への負担が大きく、自分のみならず、他人を傷つけ、大きな事故・事件を引き起こしかねないことなど、説明しました。
薬物の危険性を知った少年の両親は、少年が社会に戻ってきた際に、薬物に二度と手を染めないようにしたいので、協力してほしい、と言ってくれました。そこで、私は、薬物依存症の患者を多く診察している愛知県内の病院を探し、ちょうど少年が少年院に収容されている段階であったため、少年の両親とともに、少年の薬物依存について、病院へ相談に行きました。病院では、少年院を出た後に少年自身に病院を受診してもらって、治療を開始することはもちろん、少年を支える周りの人々も薬物依存症についての正確な知識に基づく適切な対応を取る必要があることを教えてもらいました。
それから、少年が少年院を仮退院するまでの間、少年の両親と、薬物依存症の文献を私が用意し、平易な日本語で文献の内容を説明する機会を何度か設けました。文献の中では、その場しのぎの一時的な対応をするのではなく、少年の状況に合わせた一貫した対応をとることを心掛けることが大切であることなどが記載されていました。
そのほか、少年院で少年との面会も行い、少年が仮退院した後の薬物との付き合い方や金銭管理方法など、少年本人と話し合いながら、環境調整を行いました。
少年の両親は、自分の子どもが薬物依存症であるという現実を受け入れ、少年の今後のために何ができるのかということを精一杯考え、実践していました。
少年の今後のためには、少年自身の立ち直りももちろん必要ですが、少年を支える保護者をはじめとした周りの人々への支援も大切なのだと学びました。