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サンフランシスコ市における停退学時の子どもの権利保障と弁護士の活動

子どもの事件の現場から(250)
サンフランシスコ市における停退学時の子どもの権利保障と弁護士の活動

会報「SOPHIA」令和6年5月号より

子どもの権利委員会 委員
間 宮 静 香

 縁あって2019年から教育行政の研究者の方々とスクールロイヤーの研究を開始しました。全国のスクールロイヤー経験者のアンケート調査を行い実態を把握した上で、教育政策学会で報告し、教育研究者と当会の会員らで書籍「子どもの権利をまもるスクールロイヤー-子ども・保護者・教職員とつくる安心できる学校-」(2022年、風間書房)を発刊しました。本来であれば2021年にサンフランシスコ市に調査に行き調査結果も書籍に含める予定だったのですが、コロナ禍で渡航できず、ようやく2023年に実現しました。
 一緒に行ったのは松原信継清泉女学院大学教授(当時)と中嶋哲彦名古屋大学名誉教授・愛知工業大学教授です。複数のコミュニティカレッジやUCバークレー、スタンフォード大学ロースクールなどにも訪問しましたが、本稿では特に印象的だったLSC(Legal Services for Children)について報告します。

 LSCは、1975年に設立された全米初の未成年者のためだけの無料の法律・社会福祉サービスを提供するNPO法人です。弁護士とソーシャルワーカー(以下「SW」)を構成員とし、子どもから直接依頼を受けて、教育、後見人、移民、親権の各分野で子どもの代理人となり子どもを支援しています。
 カリフォルニア州教育法典は、生徒が停学または退学させられる場合を明文化し、特に退学手続には聴聞会が必須とされ、生徒自身が弁護士を依頼し弁護を受ける権利、聴聞会で使用される文書の閲覧謄写権、反対尋問権等の各種権利が認められています。子どもは親権者の意向とは無関係に弁護士を選任することができると法で定められているのは、うらやましい限りです。

 LSCは、日頃から高校に出向き停退学における生徒の権利に関する説明やLSCの存在の周知を行っています。このようなアウトリーチの結果、2018年及び2019年のサンフランシスコ市における退学事案のうち、LSCの関与率は75%から80%にものぼっており、LSCの活動が生徒の権利の実質的保障に一役買っています。
 LSCの弁護士は、親権者ではなく子どもをクライアントとすることが特徴です。子どもに関する案件では、子どもの意向と親権者の意向が異なり、家庭内で対立する場面も生じることとなりますが、そのような場合に活躍するのがLSCのSWです。相談当初から弁護士だけではなくSWが介入することで、法的な部分は弁護士、子どもの選択によって生じる様々な影響についてはSWが対応することになります。それによって学校と子ども・家庭の対立だけではなく、親権者と子どもとの対立を緩和させることが可能となっており、あらゆる側面から子どもを中心とした問題解決へのサポートが実現されています。

 当日対応してくださったNedraさんとは、日米の子どもに関わる法的問題や弁護士の取組みの違いについて盛り上がりました。どちらもまだ子どもの権利が保障される社会の実現のために弁護士が頑張る必要があるという話になりましたが、「日本は子どもの権利条約を批准しているのに、批准していないアメリカより子どもが権利の主体として扱われていないのはなぜ?」と言われたことが胸に突き刺さりました。こども基本法ができてもまだまだと思うことばかりですが、他国でも同じように子どもの権利のために尽力している弁護士と語り合えたのは大きな刺激となりました。