愛知県弁護士会トップページ> 愛知県弁護士会とは > ライブラリー > 子どもの事件の現場から(249) 子どもは親を見て育つ

子どもの事件の現場から(249) 子どもは親を見て育つ

会報「SOPHIA」令和6年4月号より

 会員 山  口   愛

 私が担当したA君は、18歳の少年でした。初めて面会に行った際は、腕を組み、足を広げて椅子に深くもたれ、下を向き黙り、かなり態度が悪いという印象でした。A君は今回建造物損壊の被疑事実で勾留されましたが、このとき、別件で保護観察中でした。そのため、A君は、「どうせ少年院送致になるだろう」と開き直っていました。
 私は、まずはなぜそのような態度でいるのか、何を考えているのか知りたく、犯罪からは一旦離れ、A君の普段の生活や家族のこと、好き嫌い等を聞き、A君とコミュニケーションを図ることに努めました。すると、A君は母と、母の再婚相手との子である小学生の子と3人で生活していましたが、前回の審判時の身元引受人である母は子どもらを置いて外泊することが多く、過去3度の離婚・再婚を繰り返し、薬物事犯等で複数前科があることが分かりました。また、父や、母の再婚相手からの母に対する暴力を見て育ち、彼らも皆前科・収容歴があるという異質な家庭環境で育ってきたことが分かりました。
 このような話を聞き、私が共感の言葉をかけたり、A君と一致する意見を述べると、「マジでその通り!」など、こちらを向いて話すようになり、面会を重ねるうちに、ダメなことの指摘に対し理解を示したり、敬語を使い様々な話をしてくれるようになりました。
 A君は上記のような環境で育ったため、大人を信用できず、「自分の話を聞いてくれる味方はいない」と思っていたとのことでした。
 ところで、本件の被害者は被害届を出さないつもりでいましたが、被害者を説得し、被害届を出させたのはA君の母でした。A君が母の望む人以外の女性と交際していたことが気に入らず、その腹いせにとのことでした。
 また、私との電話でも、母は、「あいつ頭おかしい」「少年院に入れ」「まずは私に謝罪するべきだろ」「面会は行かん」などと述べ、A君を心配したり、事件に向き合ったりする様子は一切ありませんでした。一方で、「私が母親なのに、他の人が引き取るのは許さん」「あいつの味方する奴はみんな敵だ」などと述べていました。A君の将来を考えると、A君の保護監督者として母は適切ではなく、だからといって要保護性が高いものの、少年院送致が相当でもなく、愛情を注いで面倒を見てくれる人の下で生活することが必要であると私は考えました。
 そこで、母の状況やその不適切性を認識していた叔父に声をかけたところ、A君に同情し、自分が面倒を見てもよいと申し出てくれました。これをA君に伝えたところ、「自分に味方がいてくれたのだ」と涙しました。
 私は、家庭裁判所調査官に何度か面談を申し入れ、母の保護監督能力に疑問があることや適切な身元引受人との間で愛情を受けて生活していくことが重要であることをお話ししました。
 審判では、A君は、幼い頃から暴力や薬物摂取を目の当たりにして辛かったこと、暴力以外の解決方法を知らず悩んでいたこと、愛情を感じられず悲しかったこと等、涙ながらに初めて話すことができました。
 捜査機関や鑑別所の意見は少年院送致と厳しいものでしたが、結果は保護観察処分となり、無事に叔父に迎え入れられました。
 私は本件を通じて、改めて「話を聞くこと」の重要性を学びました。今後も、めげずに少年の話をしっかり聞き、少年の将来のために適切な更生環境を模索していけるよう努めたいと思います。