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子どもの事件の現場から(246)  「お小遣いを渡したい」

会報「SOPHIA」令和6年1月号より

子どもの権利委員会 委員 長谷川 雄 一

 私が以前、担当したA君は16歳の男子でした。A君は、自宅で家族と暮らしながら、足場を組む仕事をしている子でした。A君は、共犯少年と深夜に中学校に侵入して体育館の窓ガラスを割ったという暴力行為等処罰法に違反したとして身体拘束されました。
 A君には、中学3年生の妹が居ました。A君は、妹ととても仲が良く、今回、身体拘束される前に、修学旅行に行く妹にお小遣いを渡す約束をしていたことを話してくれました。しかし、A君は身体拘束されてしまい、審判日が、妹が修学旅行に行く前日だったので、なんとか身体拘束を解かれて、妹にお小遣いを渡してあげたいと言っていました。私は、妹のことを思うA君の優しさに触れることができて、とても嬉しく感じました。
 A君は一人では問題行動を起こさないのですが、友人と一緒に居ると、周りに流されて問題行動を起こしてしまう傾向が強いようでした。そこで、私は面会する際、A君に「この子はA君から見て、どういう子なのかな?」などと友人のことを詳しく聴いて、A君に友人のことを冷静に考えてもらうようにしてみました。A君は、徐々に友人のことを深く考えてくれるようになりました。
 また、A君の家族は、頻繁にA君の面会に行ってくれました。保護者は、A君が警察署の留置場に居た時には、毎日、面会に行ってくれました。鑑別所に移ってからは、A君のきょうだいも面会に来てくれました。A君は、一生懸命、自分のために面会に来てくれる家族の様子を見て、改めて家族の大切さに気付いたようでした。
 私は、A君が警察署の留置場に居た時に、A君から炭酸飲料が好きだと聞いていました。A君が鑑別所に移ってからは、面会でA君の好きな炭酸飲料を差し入れてみました。A君は、とても喜んでくれて、私の前で美味しそうに炭酸飲料を飲んでくれました。
 A君は、とても読書が好きな子でした。私が面会に行く度に、今まで読んで面白かった本のこと、母親から差し入れてもらった本が面白いこと等を楽しそうに話してくれました。また、A君は、鑑別所に移ってからは、毎日1冊、本を読むようにしていると話してくれました。私は、A君が好きな読書に毎日一生懸命取り組んでいる様子を見て、とても頑張っているなと感じました。
 審判では、A君はとても緊張していましたが、裁判官からの質問にきちんと答えてくれました。私は、A君の気持ちを和らげてあげようと思い、私からの質問の時には、笑顔でA君に「緊張しているかな?」と尋ねてみました。A君は、少しだけ顔を綻ばせて私のほうを見てくれました。A君がほっとしてくれた様子が分かりました。
 そんなA君の頑張りが伝わったのか、審判の結果は保護観察でした。審判が終わった後、私はA君に「これでお小遣いが渡せるね」と話しかけると、A君は嬉しそうに笑ってくれました。私は、A君のお小遣いを渡してあげたいという願いが実現できそうで、とても嬉しく感じました。
 今でも、私は、街の中でA君の好きだった炭酸飲料や本を見かけると、家族思いのA君のことを思い出します。今回、A君からは、家族を思いやる気持ちの大切さを教えてもらいました。私も、A君のように、家族を大切にします。