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子どもの事件の現場から(245) 外国籍の子どもの少年事件
~子どもの権利の視点でみてどうなんだろ~
子どもの事件の現場から(245) 外国籍の子どもの少年事件
~子どもの権利の視点でみてどうなんだろ~
子どもの権利委員会 委 員 杉 浦 宇 子
1 当番待機の日、外国籍の18歳の少年の被疑者国選の事件の連絡がきて受任することになった。久しぶりの要通訳事件だ。
2 身柄拘束された人の大事な権利について説明した後、被疑事実を確認する。徐々に少年は饒舌になる。少年の言わんとするところを正確に把握しようと質問すると、更に倍速で回り出す。少年には、しっかりした自我と意思を感じた。不当な取扱いは拒否する、自分の考えは言葉を尽くして伝える。その姿勢は大変立派だった。
3 少年にはよく理解できない色んな制限が存在する日本の留置は、少年にとって嫌な扱いをされることは多かったと思われるが、そのうち、少年自身が施設内の不満をどこまで飲み込むか自分なりに決めたようで、施設の不満を話すのは徐々に減った。
4 家裁に移って、少年には保護観察が見込まれたが、身元引受先探しが難航した。
少年の親は近隣県に居住していたが、少年への支配が激しく、少年は親に怯えていた。少年を否定する暴言や暴力の罰を与え、それを「愛」「しつけ」と考えていた。
最初少年は親と交渉して一旦親元へ戻ろうとしたが、親は暗に服従することを少年に求めた。そこで、親に内緒で同じ国籍の成人の友人の家に居候させてもらう計画に変更したが少年の親の妨害で計画はつぶれた。
自立援助ホームも自立準備ホームも、少年が日本語を話せなければ受け入れないとにべもなく断られた。
結局、調査官のツテで派遣会社が少年の受入れを了承してくれ、『働いてお金を貯めてから少年が希望する地域に引越して生活するプラン』で一旦試験観察となる。
しかし、少年は働き始めてすぐに持病の腰痛を発症して働けない状態となった。
試験観察後の生活にかかる初期費用は派遣会社からの前借りで準備したが、会社は、働いていない者へのこれ以上の前借りはさせられないと言った。
少年の生存・生活・健康等、基本的人権を、責任をもって保障する支援を受けるためには、少年自身が動く必要があったが、日本語のできない少年にはどうやればよいか全く分からない。附添人以外に緊急事態の少年の意向を尊重しつつ支援する者はなく、仕事の調整をして時間を作って、住民票の異動、保険証の取得、生活保護の相談・申請、病院への予約
と通訳手配、病院への同行の全てを附添人である私が支援した。
支援しつつ、外国籍の少年への日本社会の支援は、控え目に言って決して温かいものではないと感じざるをえなかった。
少年は画像で確認できるくらいのヘルニアの悪化が見られ、当初手術を希望していたが、病院・生活保護係・雇い主等の調整でもたついている間に手術を諦め、試験観察が終わったら知り合いを頼って遠方へ行くと決めていた。
5 試験観察を終え、少年は不処分となって本人の予定どおり遠方に去って行った。
少年は酷い腰痛を手術で治療して働くことを望んだだけなのに、自己主張の強さを疎まれ「怠けている」「我慢が足りない」と大人に思われた。少年はそういう場所を拒否してさっさと遠くへ行ってしまった。
子どもの人権がどの国の子どもにも平等に保障される社会への道は。。。