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「仕事の楽しさ」を共に学んで

子どもの事件の現場から(237)
「仕事の楽しさ」を共に学んで

会報「SOPHIA」令和5年4月号より

会 員 池 田 篤 紀

 少年と出会ったのは今から数年前、私がまだ新人弁護士だった頃。
 担当することになった少年には、保護処分歴があった。私が担当することになった案件では、被害者がいて、被害結果も決して軽いものではなかった。また、少年の両親は長年少年に振り回され疲弊し、少年との縁を切りたがっており、全く協力的ではなかった。そのため、このままでは少年院へ行く可能性が高いのではないかと考えた。
 少年は、逮捕当初より、取調べ担当の警察官らから今後の見通しや、両親が面会に来ない理由、両親の心情を伝えられていたため、暴れまわり、「大人は信用できない」、「人生終わりだ」、「被害者に対して復讐してやる」と自暴自棄になっていた。
 私は、少年を取り巻く環境を鑑みれば、早期に身柄解放するよりも、少年院での更生が少年のためになるのではないかと考えていた。しかし、私自身、少年院へ行ったことはない。本で読んだこと、学んだことを伝えても、少年の疑問・不安は解消できない。少年の性格を考えてみても、安易に伝えた場合には、身柄解放をあきらめた、弁護士もそこらの大人と変わらない、と思われてしまう可能性があった。
 そこで、私は、少年院のその先を見据え、少年に対し、「仕事の楽しさ」を伝えるようにした。
 私は毎日のように警察や鑑別所に顔を出した。堅苦しい大人と思われたくなかったので、できる限り私服に着替えて会いに行った。事件の話はほどほど。弁護士ではなく、少年にとって兄や先輩のような立場で、仕事の内容、弁護士を志した理由、仕事上の失敗談、愚痴、自慢話、成功談、給与、お金を貯めて購入した物、これから買いたい物、今後の夢など、まずは自分の話をした。少年に差し入れる本は就活生が読むような業界説明本で、漫画を差し入れることがあってもビジネスを題材にした内容のものにした。少年は、宿題のような本を持ってくる私に対し、勘弁してくれよ、と笑いながら拒否するものの、全てしっかり読んでいた。そして、少年は徐々に「仕事」に興味を持つようになり、将来、社長になって、お金持ちになって、今の自分と同じような境遇の子を雇って、従業員に誇れる仕事をしたい、結婚もしたい、と夢を持つようになった。出会った当初の少年とはまるで別人のようだった。今後を見据えて夢を語る少年の笑顔を今でも鮮明に覚えている。
 その後、少年は少年院へ行くことになった。しかし、私と少年の関わりが途絶えることはなかった。少年から関わりを持とうとしてくれた。少年から、少年院ではこんな本を読んでいる、20冊以上読んだ、得た知識を使って早く仕事がしたい、少年院を出たら私と一緒に仕事をしたい、と手紙で近況を報告してくれるようになった。
 現在、少年は夢をかなえ、社長となった。そして、私は、今、少年の顧問弁護士だ。危なっかしい一面は少年のときのままであるが、嫌なことがあっても踏みとどまり、しっかり前を向いている少年を顧問弁護士として全力で支えたい。
 私の活動は弁護士の活動そのものと言えるものではなかったが、今の少年の頑張りをみていると、私のやってきたことに自信を持てた。私も少年から仕事の楽しさを学んだ。