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子どもの事件の現場から(236) 私の原点~弁護士を志すきっかけとなったAさん~

会報「SOPHIA」令和5年3月号より

会 員 杉 原 浩 介

 今回の原稿執筆にあたり、最初に思い浮かんだのは、私が弁護士を志すきっかけとなったAさんのことでした。
 私は、弁護士になる以前、公立中学校の教員をしていました。Aさんは、当時中学3年生で生徒会の役員をしていました。私は2年生の担任でしたが、生徒会の顧問をしていたことやAさんが1年生時に同じ学年の担任をしていたこともあり、Aさんとの関わりがありました。
 ある日、Aさんは職員室にいた私に「先生、ちょっと相談したいことがあるんだけど。」と話しかけてきました。しかし、私はそのとき他の仕事をしていたため、「ちょっと今忙しいから、また今度でも良い?」と言って、Aさんからの相談を後回しにしてしまいました。その後、私は、Aさんからの相談のことをすっかり忘れてしまっていましたが、それから2、3か月経ったころ、再びAさんが私に相談したいことがあると言ってきたことから、漸く私はAさんの相談を聴きました。
 Aさんの相談内容は、小学校低学年のころから養父から性的虐待を受けていて現在も虐待が続いている、母親には相談できず、ずっと苦しんでいたというもので、極めて深刻かつ早急に対応しなければならないものでした。
 私は、Aさんからの相談内容をすぐに教務主任の先生や教頭先生に報告し、Aさんはその後、児童相談所で一時保護され、暫くして養父は警察に逮捕されました。
 Aさんが一時保護された後、私はAさんのために自分に何かできることはないかと思っていましたが、Aさんの学級担任でも学校責任者でもなかった私は、一時保護中に一度だけ児童相談所でAさんと面会して話をすることしかできず、それ以外にやれることは何もありませんでした。私は、一教員としての無力感にさいなまれ、同時に、Aさんが勇気を振り絞って出してくれたSOSを、日々の多忙を言い訳にして後回しにしていた(しかも完全に忘れていた)自分がとても情けなく、その間も性的虐待を受け続けていたAさんに対し、本当に申し訳ないと後悔しました。
 そのようなとき、私は、数年前にロースクールができたということを知り、弁護士になればAさんのような虐待を受けて苦しんでいる子どもの力になれる、手助けができるのではないかと漠然と考え、教員を辞職して、弁護士になろうと決意しました。
 その後、私は、ロースクールのエクスターンシップで、子どもの事件を多く扱っているT弁護士の事務所でお世話になりました。私がAさんの話をT弁護士にしたところ、偶然にもT弁護士は、Aさんの支援弁護士として、当時Aさんと関わっていたことがわかりました。さらに、エクスターンシップの最終日、私はAさんと数年ぶりの再会を果たすことができました。T弁護士がサプライズでAさんを事務所に呼んでくれていたのです。Aさんは、高校に進学し、養父のいない安心・安全な家庭環境で生活ができていることを私に話してくれました。
 現在、私は、子どもサポート弁護団の一員として、愛知県内の児童相談所で児童虐待対応弁護士としての活動をしています。そのなかで、Aさんのように虐待に苦しんでいる子どもたちに対して私ができることはわずかしかありませんが、少しでもその力になれる、手助けができるような活動をしていきたいと思っています。