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早起き、頑張るね

子どもの事件の現場から(233)
早起き、頑張るね

会報「SOPHIA」令和4年12月号より

子どもの権利委員会 委員 長谷川 雄 一

 私が付添人として担当したA君は、17歳の高校生の男子でした。お金目的で集団暴行を行い被害者に怪我をさせたとして、恐喝未遂と傷害の罪名で身体拘束されました。面会したA君は、穏やかな雰囲気の少年で、本当に集団で傷害を加えるという重大な事件を起こしたのか、私はとても不思議でした。
 話を聞いている内に、A君が今回の事件を起こす前に、A君自身が先輩からお金を巻き上げられる被害に遭っていたことが分かりました。A君にとっては、夏休みに父親の仕事を手伝って貯めた大切なお金でした。そんな大切なお金を巻き上げられて、A君はとてもショックを感じたようでした。A君は、同じくお金を巻き上げられた共犯少年と話している内に「年下の奴から取ればいいじゃないか」との話になり、流されてしまったようです。
 少年鑑別所に移った後の面談の時に、私はA君に「僕も苦手なことにチャレンジするから、一緒にチャレンジしてみない?」と提案してみました。単にA君に苦手なことを克服するよう話すのではなく、私もA君と苦手なことにチャレンジするようにすれば、A君も一生懸命に取り組んでくれるのではないかと思ったからです。A君は私のこの提案を受けてくれました。そこで、A君は毎日ドリルを8ページ勉強すること、私は苦手な早起きをすることにしました。
 そこから、私とA君のチャレンジが始まりました。面会で、A君は楽しそうに、勉強したことを話してくれました。私も「今日は早起きできたよ」「ごめん、今日は早起きできなかった」などと結果を話しました。A君は、私と一緒に取り組むチャレンジに楽しそうに付き合ってくれました。A君の家族も、何度も面会に来てくれました。A君は、次第に自分の起こしてしまったことの重大さに気づくようになりました。
 審判では、A君は裁判官から事件を起こした理由を聞かれました。A君は、お金を巻き上げられたことを泣きながら話してくれました。私は、その姿を見てA君もとても辛い思いをしたんだなと改めて感じました。
 審判の結果は少年院送致でした。それでも、A君の鑑別所での生活態度等が評価され、短期となりました。A君は、審判前は「少年院だったら抗告する」と話していましたが、審判後の面会では、すっきりした表情で「抗告はしないで、少年院で頑張ってきます」と話してくれました。
 私は審判後も、A君と約束した早起きを、何度も失敗しながらチャレンジし続けました。
少年院のA君宛てに、今でも早起きにチャレンジしていることを書いた手紙も送りました。
 手紙を送った後、私は少年院に行ってA君と面会しました。A君は、少年院でとても頑張っていて、チャレンジしていることをたくさん話してくれました。私が「今も早起きするよう頑張っているよ」と話したら、A君はとても嬉しそうに私の話を聞いてくれました。後日、A君が私に手紙をくれました。頑張って書いたことが分かる丁寧な文字で文章が書かれていました。その手紙からも、A君の頑張りがとても熱く伝わってきました。
 少年院から出てきた日、A君は親と一緒に私に会いに来てくれました。A君は立派に成長した様子で、通信制の高校に編入して、頑張って高校卒業の資格を取ると、新たなチャレンジを楽しそうに話してくれました。
 今回、A君からは、付添人も少年と一緒にチャレンジすることの大切さを教えてもらいました。これからも、少年と共に新たなことにチャレンジしていきます。