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子どもの事件の現場から(232)壁にぶつかりながら

会報「SOPHIA」 令和4年11月号より

子どもの権利委員会 委員 三田翔一

 今回は、NPO法人子どもセンター「パオ」(以下、「パオ」)で関わった子について書きます。

 その子は、実父から長年、性的虐待を受け、父母が離婚してからは母子施設で生活をしていましたが、フラッシュバックがあり精神科病院に入院し、その後母が受入れを拒否したためパオに打診があったという事案でした。

 最初は、パオの運営する子どもシェルター「丘のいえ」(現在休止中)に入所しました。その子が中3の終わりの頃でした。

 パオでは、施設に入所した子にはパートナー弁護士が付きますが、彼女のパートナー弁護士として、高橋直紹会員、山谷奈津子会員、私が付くことになりました。

 彼女は、虐待による重いトラウマを抱えており、日中に会ったときは落ち着いていても、夜になると不安定になり、フラッシュバックが起きたり、リストカット等の自傷行為を行ったりというのがありました。泣きながら電話を掛けてくることもありました。

 施設では対応しきれず、入院をすることになりました。彼女は、これまでちゃんとしたトラウマ治療は受けてこなかったので、トラウマ治療ができる病院に入院することになりました。そこで出会った児童精神科の医師が親身に治療を行ってくれ、徐々に生活ができる状態になっていきました。

 つらい入院生活に耐えて、半年後に、パオが運営する自立援助ホーム「ぴあ・かもみーる」に入所しました。しかし、人間関係の悩みや、以前から交際していた彼氏に対する思いが強くなり、施設を飛び出しました。施設には戻りたくないということで再度入院をし、彼女が16歳を迎えた頃に、彼氏と結婚を前提に同居をすることになりました。

 パートナー弁護士からは、彼との同棲・結婚について心配であることを伝えましたが、彼女の思いは変わらなかったため、パートナー弁護士と彼氏とで面談を行い、彼女のトラウマの説明とその対応について話をし、その後、同棲を開始することになりました。

 最初は、彼女も家事やバイトを頑張ると張り切っていましたが、それほど経たずに、彼との関係が悪くなり、家出をし、しばらく友達のところに泊めさせてもらったり、病院に入院をさせてもらったりしていましたが、結局彼と離れきれずにしばらくして彼の元に戻ってしまうということが繰り返されていました。お互いに執着している状態のように見受けられました。それを何度か繰り返した頃、ようやく彼女もふん切りがつき、彼と別れることを決め、生活保護を受給して一人暮らしを開始することになりました。

 パートナー弁護士は、月1回の通院に同行したり、ご飯を食べに行ったりしますが、体調が悪いときは本人からラインでSOSを伝えてきてくれます。最近は、自分で体調を立て直すこともできるようになってきています。

 いろいろと波瀾万丈な子ではありますが、壁にぶつかりながらも、頑張って前に進み成長している様子はとても健気だなと思います。

 最初に丘のいえにいた頃は不安定で、彼女自身もつらかったようで、パートナー弁護士が交代で様子を見に行っていました。そのときのことについて、「パートナー弁護士がいてくれてよかった」と言ってくれて嬉しかったです。

 今も不安定になることは度々ありますが、彼女が元気に暮らせるように支援を続けていきたいと思います。