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子どもの事件の現場から(223) 特別養子縁組制度の改正

会報「SOPHIA」令和4年2月号より

名古屋市西部児童相談所 常勤弁護士 根ケ山 裕子

 児童相談所は、さまざまな事情で妊娠したけれども、子どもを育てることが難しい親から相談を受けます。最近では特別養子縁組が子どものための制度であることが広く知られるようになり、悩みに悩んだ末に生まれてくる子どもに安定した家庭環境で育ってほしいと願って、特別養子縁組を希望される方がいます。実親から特別養子縁組の希望があると、児童相談所は調査の上で、養子縁組を希望している里親とマッチングをします。子どもを委託する里親が決まると、子どもと里親との交流が始まります。正式に子どもが里親に委託されると、6か月の試験養育期間を経て、特別養子縁組の審判の申立てをしています。
 もともと特別養子縁組の制度は、昭和62年に家庭に恵まれない子に温かい家庭を提供して、その健全な養育を図ることを目的に、専ら子どもの利益を図るために新設されました。しかし、特別養子縁組の制度はその目的に反して必ずしも十分に利用されてきませんでした。平成28年の児童福祉法の改正により、すべての児童は適切な養育を受け、心身の健やかな成長及び発達、自立等が保障される権利を有する旨が規定され、また、国及び地方公共団体の責務として、家庭における養育が困難な児童に対する家庭と同様の養育環境における養育の推進が求められました。特別養子縁組は、児童養護施設に入所中の児童等に家庭的・永続的な養育環境を与えるための選択肢の一つとして位置づけられています。しかし、養子となる者の年齢要件が原則6歳未満のために学齢児について利用することができないこと、養親候補者が試験養育を開始した後に、実親が突然の同意の撤回をすることがあるため、安心して養育することができないということや、また里親が養親候補者となるケースについては、実親と里親双方の個人情報が開示されてしまうという課題がありました。
 令和元年6月の民法改正(令和2年4月1日施行)により、特別養子縁組の制度が大きく変わりました。まず、対象となる養子の年齢制限がこれまでは原則6歳未満とされていたのが、15歳未満まで引き上げられ、家庭裁判所の審判手続が二段階化されました。特別養子縁組に関する審判は、①特別養子適格の確認審判(実親の養育状況と実親の同意の有無を判断する審判)と②特別養子縁組の成立の審判(養親候補者と子どもとのマッチングを判断する審判)の二段階からなり、前者の審判が確定すると、養子の実親は後者の審判には関与できなくなります(家事事件手続法164条第4項)。そして、第一段階の手続において実親の同意の撤回制限の規定が設けられました(同法164条の2第5項)。また、この改正に伴い児童福祉法も改正され、児童相談所長が特別養子適格の確認審判の申立てや手続への参加ができる制度が新設されました。
 これまで実親の同意が得られず、実親と養親候補者との対立が予想される場合や実親の不適切な養育状況について詳細な立証が必要となる場合に養親候補者にとって大きな負担となっていましたが、児童相談所長が申立て等の手続への関与ができるようになりました。特別養子縁組の成立要件そのもののハードルの高さは変わりませんが、この改正をきっかけに、特別養子縁組の制度の利用がさらに増えていくのではないかと思います。他方で、年齢引き上げに伴う養子となる子どもの意向の適切な確認方法や縁組成立後の支援拡充が今後求められるようになります。