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子どもの事件の現場から(218) 2人の中学生

会報「SOPHIA」 令和3年9月号より

子どもの権利委員会 委員 福谷 朋子


 少年事件の減少に伴い、最近は付添人名簿の割当日にも配点がないことが多く、付添人活動の頻度は激減しています。その数少ない付添人活動の中で、偶々、近い時期に中学生の少年を2件担当することがありました。
 2人とも中学3年生。些細なことがきっかけで中学1年生の2学期頃から不登校になったという共通点がありました。
 Aくんは、学校に行かない時間、自室でオンラインゲームをして過ごしました。「ネッ友」と彼が呼ぶゲーム仲間とチームを組んで、夜な夜な対戦し、昼夜逆転の生活となりました。生活状況の改善を強く主張する母との関係が徐々に悪化し、暴力を振るうようになりました。ある日、ゲーム仲間との会話に必要不可欠な(と彼が思っている)イヤホンを誤って処分してしまった母に激怒し、危険な暴行を加えたことを機に身柄を拘束されました。
 Bくんは、学校に行かない時間、外で遊びまわりました。最初は地元の先輩等と遊んでいましたが、徐々に行動範囲が広がり、SNSで知り合った子の家を泊まり歩いたり、一緒に万引きや喧嘩をしたりするようになりました。遊び仲間と起こした暴力事件がきっかけで身柄拘束されました。
 2人とも、不登校になってから2年余りの間、何度も学校に行こうと努力していました。どちらの保護者も、無理矢理登校させようとはせず、彼らのペースを見守ってくれていましたが、彼らなりにプレッシャーを抱え、不安や葛藤と向き合いながらの2年間だったようです。鑑別所の日記には「がんばりたいと心で思っていても制服を着て家を出るの一歩がなかなかできず困っていました」との記載(ママ)がありました。先生が迎えに来るのがプレッシャーだったとも話してくれました。
 身柄拘束された時期は数か月異なりましたが、2人とも、進路を決定する時期にありました。鑑別所で卒業後の進路について希望を聞くと、Aくんはコンピューター関係の専門学校に、Bくんは美容専門学校に行きたいと述べました。
 Aくんとネッ友との交流を妨害しているように見える母との関係は悪化の一途をたどっており、家庭内暴力が繰り返される危険がありました。Bくんの不良交友の範囲は急速に拡大していました。ネッ友、遊び仲間は、当時の彼らにとって唯一のよりどころであり、関係断絶は容易ではないと思えました。が、息子を信じて、できることはしたいという保護者の思いもあり、在宅試験観察の意見を書きました。担当裁判官は異なり、いずれも、施設内処遇で生活を立て直すことを有力な選択肢とされていたように思いますが、最終的には、彼らの力を信じて、2人とも、在宅試験観察処分としていただきました。
 試験観察期間中は、担当調査官が頻回で面接を入れてくれました(付添人も同席しました)。家裁の看護師による暴力について考える保健指導も実施されました。数か月早く試験観察となったAくんは、適応指導教室とフリースクールを併用して生活リズムを整えました。受験日まで間もない時期に試験観察となったBくんは、母と学校の協力のもと慌ただしく準備をしました。そして2人とも、見事に志望校に合格しました。
 最終審判で、裁判官は、試験観察中の少年の頑張りを評価してくれました。暗闇の中を手探りで進むような中学校生活を過ごした彼らにとって、その言葉は、今後の糧となるものと思います。