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だから少年事件はやめられない

子どもの事件の現場から(206)
だから少年事件はやめられない

会報「SOPHIA」令和2年9月号より

子どもの権利委員会 委 員 敦 賀 昭 代

1 私が少年付添人事件を担当した少年は34名です(再非行の事件を担当したことが1回ありますので、事件としては35件です)。その中で、事件後にとても嬉しいことがありましたので、ご報告させていただきます。

2 今回お話させていただく少年(その当時16歳)とは、2013年秋に原付窃盗容疑の被疑者国選担当として出会いました。

 母の勧めで希望していなかった定時制高校に入学した後に生活が乱れ、退学。退学後にできた友人と原付を数台盗んだ、という事件でした。その事件後に、少年が打ち込める仕事を見つけ、安定した生活を送り始めた矢先に窃盗事件で逮捕・勾留されてしまいました。被害者が複数いたため、謝罪や被害弁償で若干苦労しましたが、少年付添人事件を担当されたことのある会員であれば、経験のあるような事件かと思います。

3 少年は少し斜に構えたところはあるものの、時間をかけて話をすれば、素直に応じてくれる子という印象でした。複雑な家庭環境にはありましたが、家族は少年のことを心配して、少年の更生のために尽力することを約束してくれました。

 審判の結果は保護観察でした。審判後に少年や家族とお話したのですが、特に印象に残ることを話した記憶はなく、「困ったことがあったらすぐに相談してね、自分を大切にね」といった話をしたと思います。

4 その後、その少年には年賀状・暑中見舞いを送り続け、本年1月に事務所を独立開業した際にも案内状を送りました。

 2月初旬、その案内状をみて、もう成人している少年が、お世話になった弁護士さんの独立開業なのでお祝いしたい、とお母さんと一緒に事務所に来てくれました。素敵なお花と本人が選んでくれたマグカップを手書きのメッセージとともにプレゼントしてもらいました。私は残念ながら、期日で不在だったのですが、対応した事務員の話では好青年でした!とのこと。そのプレゼントは私にとっての宝物で、マグカップは使うことができず、事務所に飾らせてもらっています。

5 少年付添人事件終了後の少年との関わり方についてはそれぞれの会員ごとの考え方があるかと思います。私の場合は、「つかず離れず」で、こちらから積極的に連絡をすることはありませんが、「困ったらいつでも連絡してきていいよ」と、事件が終わった時には少年や保護者に伝えるようにしています。今回ご紹介した少年と同様、担当させてもらった少年には届く限りは年賀状・暑中見舞いを送っています。そうすることで、「困ったときに相談できる」為の細い糸になると考えているからです。

 中には、少年からの返信で、「やりたい仕事が見つかって頑張っています」「結婚して子どもが生まれました」といった嬉しい報告をもらえることもあります。

6 少年付添人事件は弁護士として関わる時間は短いことが多いものの、その中でも私が関わることで少しでも良い影響を少年に与えられたら、と思っています。しかし、実際には、一人一人の少年から私自身がいろいろなことを学ばせてもらっていますし、少年の為に「何もできなかった」と自分の無力を痛感したり、報われない気持ちになったりすることもあります。そうであっても、成長した少年との再会という、こんな素敵なことがあるから、少年付添人事件はやめられないのです。