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子どものちから

子どもの事件の現場から(203)
子どものちから

会報「SOPHIA」 令和2年6月号より

会 員 高 橋 直 紹

1 4月末から、新型コロナ関係の特別定額給付金のことでバタバタと動き回っていました。親からの虐待等で家を飛び出した子どもたちの中には、住民票を動かせていない子も多く、世帯に給付される定額給付金が子どもに交付されない可能性が大きかったからです。弁護士会で会長声明を出してもらったり、行政からも通知等が出て、少なくとも私が担当している子どもたちは何とかなりました。
2 そんな一人であるAさんは2年ほど前、母からの虐待に堪えられず、妹と二人で家を飛び出し児童相談所に逃げ込みました。18歳未満の妹は児童相談所の一時保護所、Aさんは18歳以上だったので一時保護はできず、子どもセンターパオのシェルター「丘のいえ」にて保護されました。姉妹が一緒に逃げてきたケースなので、二人とも「丘のいえ」にて保護した方がいいのではないかと、私は児童相談所に何度か言ってきましたが、それは叶わず、妹は家に帰ることを希望して自宅に戻ったと後から聞きました。
3 Aさんは、妹が自宅に戻ったことを聞いても家には帰らないと話し、パオの自立援助ホーム「ぴあ・かもみーる」に移り、自立に向けて生活を開始しました。私と杉浦宇子会員が、子どもの権利のために動くパートナー弁護士となりました。
 Aさんは当時高校3年生でしたが、家を出る以上は高校は辞めざるを得ないと思っていました。ただ、卒業まで半年であること、高校も応援してくれていたこと等から、諦める必要はないのではないかと話したところ、彼女は再び高校卒業に向けて希望を持ち始めました。午後6時という門限を守りながら、遠くの高校に毎日通うのは大変だったと思いますが、頑張って通学を続け無事卒業式を迎えることができました。私と杉浦会員も卒業式に参加させてもらい、クラスメイトと一緒に卒業できることを喜ぶ姿を見て感無量でした。
4 Aさんには福祉関係の仕事がしたいという将来の夢がありましたが、高校卒業すら断念しなければならないという状況で、パオに来たとき彼女は夢を完全に諦めていました。しかし、子どもたちを受容的に支援する「ぴあ・かもみーる」のスタッフと接する中で、自分もこのような仕事をしたいと強く思うようになり、一旦諦めていた大学進学も再び目指すようになりました。私もいくつか大学のオープンキャンパスに同行しました。
 問題は入学金・授業料、そして日々の生活費の捻出方法でした。私は彼女の父に思い切って連絡し、彼女が大学進学を希望していることを伝えました。その話を聞いた父は、こんな状況になってしまったが自分は娘を応援したいと思っていると話し、学費を負担すると話してくれました。
5 Aさんは無事大学に進学し、パオも旅立ち一人暮らしをしています。学費は父からの支援、生活費は奨学金とアルバイトで賄っています。約8か月のパオでの生活は、「人生のいい転機になったし、本当に来ることができてよかった」と話してくれています。
6 この春、再び妹が家を飛び出し、私と杉浦会員がパートナー弁護士となりました。2年前一時保護所から家に戻った理由を聞くと、当時一時保護所内で小さい子どもに厳しく対応する職員がいて、それを見るのが辛かったからだと話していました。あのとき、私たちが一度でも直接会って妹と話ができていればと悔やむとともに、これから自立に向けて応援を続けようと思っています。