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ひまるん相談室 ~引っ越し時のトラブル~

中部経済新聞2023年3月掲載
ひまるん相談室 ~引っ越し時のトラブル~

【質問】

 来週新築の家に引っ越すのですが、引っ越し業者は、繁忙期ということもあり、短い時間で作業を行うようです。時間があまりかからないのはありがたいのですが、急いで作業されて、新築の家に傷がついたり、家具などが壊れたりするのは嫌だなと思っています。仮に家に傷が付いたり家具が破損したりした場合、引っ越し業者に壁紙や家具について修理費を払ってもらうことはできるのでしょうか。

【回答】

 

引っ越し業者の本来の義務は、注文者の荷物を運ぶことですが、付随的義務として、注文者の財産に損害を与えない注意義務も負っています。そのため、家屋や家具が破損した場合には、引っ越し業者の義務違反に基づいて修理費について損害賠償請求をすることは可能です。

まず家屋についてですが、破損箇所の修理費について、損害賠償請求をすることになります。引っ越しが終了してから時間が経ってしまうと、居住者による破損の可能性も否定できなくなります。そのため、引っ越しの際に破損したことを証明できるように、引っ越し直後に家の中に破損個所がないかを確認し、もし破損個所が見つかれば写真や動画を撮影し、証拠を残すことが必要です。なお、賃貸物件など新築でない家屋の場合には引っ越し前から破損している可能性もあるため、引っ越し前には破損していなかったことを証明できるように、引っ越しの前に、破損しやすそうな箇所を中心に家屋全体の写真や動画を撮影し、破損個所がなかったことの証拠を残しておくことも必要です。

次に家具の破損についても、家屋と同様に修理費について損害賠償請求は可能です。証拠の点に注意する必要があるのも家屋の場合と同様です。

ただし、正規の大半の引っ越し業者が使用する標準引越運送約款というものが存在するため、請求できる期間が家屋とは異なる点に注意が必要です。具体的には、引っ越し業者がその破損を知らなかった場合には、注文者が荷物を受け取ってから3か月以内に引っ越し業者に対して荷物の破損に関する通知を発しないと引っ越し業者の責任が消滅します。さらに、通知をした場合でも、注文者が荷物を受け取った日から1年以内に裁判上の請求がされないときも、引っ越し業者の責任が消滅します。そのため、引っ越し直後は忙しいと思いますが荷物の確認を早めに行うことが重要ですし、確認がしやすいように段ボールにナンバリングするなどの工夫も必要かと思います。

なお、標準引越運送約款には、貴重品など荷物の質によっては、破損・紛失について、引っ越し業者に責任を問えない場合があることやキャンセル料などについても記載があります。見積時に提示されますので、気になる点はご確認ください。