愛知県弁護士会トップページ> 愛知県弁護士会とは > ライブラリー > 子どもの権利条約フォーラム2023 inとよた分科会 「子どもの声で学校をつくる~校則と 子どもの権利~」シンポジウムを聴いて

子どもの権利条約フォーラム2023 inとよた分科会 「子どもの声で学校をつくる~校則と 子どもの権利~」シンポジウムを聴いて

会報「SOPHIA」令和6年1月号より

子どもの権利委員会 委員  福 谷 朋 子

1 当会子どもの権利委員会では、令和4年度に校則プロジェクトチーム(以下「チーム」)を立ち上げました。民法改正により成年年齢が18歳とされ、学校教育において主権者教育がこれまで以上に重要となる中、学校生活で生徒たちの権利は尊重されているのかを調査し、学校現場に自己決定権を含めた子どもの権利が根付いていないのであれば、今後根付かせるにはどうすべきかを考える必要があるのではないかという粕田陽子会員の呼びかけのもと、18名の委員有志でチームを結成し、この1年、愛知県内の50校の県立高校に対して校則の行政文書開示請求を行うとともに、校則ホットライン、生徒、学校、生徒会等へのアンケートやインタビューを実施してきたとのことです。
 私はチーム員ではなかったためその活動には関与していなかったのですが、令和5年11月26日に開催された「子どもの権利条約フォーラム」の中の一分科会としてその調査結果が発表されると聞き、一聴衆として参加しました。会場には、教員や中高生等弁護士以外の参加者の姿が多く見受けられました。なお「子どもの権利条約フォーラム」は、子どもの権利条約の普及と、子どもの権利に関心を寄せる人々の意見交換等の場として1993年に始まり、子どもの権利条約採択記念日(11月20日)前後に、毎年全国各地で開催されているイベントです。今回も、本分科会だけでなく、様々な講演や分科会、全国の子どもたちによる発表等が行われていました。


2 第1部は、これまで数多くの子どもの権利に関する調査研究や実践、行政における子どもの権利に関する条例や仕組づくりの支援にあたってこられた早稲田大学名誉教授の喜多明人さんによる基調講演でした。喜多さんは子どもの権利条約を軸としたこども基本法が制定された2023年の今こそが子ども参加の学校づくりの新局面であるとした上で、おとなに忖度し、対面型の意見表明が困難な子どもたちの現状を踏まえ、子どもアドボカシー(意見表明支援)の必要性や学校に浸透するにあたっての課題等をわかりやすく説明されました。「生徒は指導対象である」という従前の文科省や学校現場の認識(令和4年12月の生徒指導提要改訂により文科省は明確に方針を転換しています)が残る中、課題は山積しているが、生徒の自己決定的な意見表明と結びついた校則見直しが学校づくりの第一歩となる、校則を現在のような生徒を管理する規則から生徒が自主的に進めるルールづくりとしていく必要があるという話は、日頃から学校現場に触れる者として強く首肯できるものであり、ぜひこの考えや動きが学校現場に浸透してほしいと思いました。


3 第2部では、チーム員の梅村直也会員、北川喜郎会員による行政文書開示請求により開示された愛知県立高校50校の校則の分析結果と学校・生徒会・生徒へのアンケート・インタビュー結果の報告と、愛知県立足助高校の飯田雅史教諭による同高校のルールメイキングプロジェクト実践報告がされました。
 チームによる調査・分析結果の報告にあたっては、まず参加した生徒向けに「皆さんは『自由』に生活できていますか?」「校則は、一人ひとりの『人権』を尊重できていますか?」「『校則』とは、何なのでしょう?」という問いかけがなされました。その上で、気温に応じて着るものが選択できない、自己表現の1つである髪型に厳しい制限がある、自主性に委ねるべき部活動が強制参加になっているなど、生徒の権利が必要以上に制限されているという分析結果が報告されました。生徒、学校、生徒会に対するアンケート等の結果報告では、それぞれの視点から、さらにはこれを横断的に見てわかったこととして、実際に生徒や保護者の声をきっかけに校則が変わっていることや、「生徒と生徒会」「生徒たち(生徒・生徒会)と学校(教職員)」をつなぎ生徒が意見表明できる環境づくりが必要であること等が報告されました。参加者に配付された資料(冊子)からは、いかに幅広く調査がされ、緻密な分析が行われたか伝わりました。これらの資料は、実務上も、おそらく学術的にも貴重なものであり、学校関係者や子どもに携わる者にとっては「お宝」といっても過言ではありません。取り纏めのクオリティとともに、それを限られた時間の中で、参加する生徒にもわかるように要点をまとめて報告されたチームに敬意を抱かざるを得ませんでした。
 足助高校のプロジェクトについては、スマホ班、アルバイト班、制服・身だしなみ班に分かれて、生徒たちの検討結果や、これに基づく校則の一部見直しの経過や結果等が報告されました。「校則面倒くさい」と考えていた生徒たちが、校則が作られた背景を知り、さまざまな人の意見を調整しながら、校則を見直していく様子に感銘を受けました。


4 第3部では、基調講演をされた喜多さんと足助高校校長の谷上正明さん、チーム責任者である粕田会員によるパネルディスカッションが行われました。
 谷上さんは、校則見直しに取り組もうとした理由として、各国の18歳意識調査における我が国の結果(自己肯定感や「自分で国や社会が変えられる」という質問に対する肯定の回答が著しく低い)を見て、これまで教員として良かれと思ってやってきたことが間違っていたのではないか、今変えないといけないという危機感があったと述べておられました。校則により生活の細部を規制されることで、子どもたちがおとなの指示に従ってさえいれば考えなくすむ状態になることは、現在の変動する社会を生き抜く力を奪うのではないかという指摘については、現場の教員からそのような意見が出ることに感動を覚えるとともに、全教員に(保護者にも)聞いてもらいたいと思いました。粕田会員からは、日本の子どもの精神的幸福度が38国中37位である理由として、自分自身が人生のハンドルを握れていない、自分の力を信じられていないのではないかという指摘がありました。喜多さんは、校則の見直し場面で生徒の参画が進まない理由として、周りから何か言われるのではないかという躊躇を挙げられた上で、「(子どもに)力はあるけれどないのは機会である」という言葉とともに、学校が「我がまま(我のまま)」を大切に、生かしていく必要があるのではないかとの見解を述べられました。これまで、子どもの意見を聴いて反映させることをしてこなかった我が国において、子どもたちは意見を聴かれることにも伝えることにも慣れていません。まず学校現場をはじめとし、我々おとなが「意見を聴き、これを反映する」姿勢を持つことが大切であると強く感じました。と同時に、校則検討や意見表明に先立ち、学校教員も子どもたち自身も、人権や子どもの権利について知る必要があるのではないかという粕田会員の指摘に、我々弁護士にもまだまだやるべきことがあるという思いを新たにしました。
 パネルディスカッションの最後には、校則見直しにあたり、子どもが自分の意見を表明し、これを聴いてもらい、大切にされることを実感しつつ、おとなと共にルール作りをするというプロセス自体が、学校現場に子どもの権利が根付いていくきっかけになるのではないかというまとめがされました。会場全体がその思いを共有できただけでも大きな意義があったと思います。パネリストの方々の強い思いが伝わってきて、50分で終わるのが惜しいような濃密な内容でした。