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円滑な事業承継に向けた対応

中部経済新聞2022年8月掲載
円滑な事業承継に向けた対応

 中小企業では、経営者の多くが、金融機関等に対する債務に関して、連帯保証をしています。今回は、経営者保証に関する事業承継時の対応及び債務整理時の対応について、ご紹介します。

 数年来、中小企業の経営者の高齢化がすすんでおり、事業承継が国を挙げての重要な課題になっています。これまでの慣行では、事業承継を行った場合は、後継経営者個人が前経営者から連帯保証を引継いでいました。しかし、後継経営者にとって、連帯保証を引継ぎ、個人としても債務を負担することは、経済的にも心理的にも大きな負担となりますので、経営者の連帯保証は、事業承継における後継者確保の大きな障壁となっています。

◆経営者保証に関するガイドライン

 経営者保証については、全国銀行協会及び日本商工会議所が「経営者保証に関するガイドライン」を策定し、平成26年2月から適用されています。このガイドラインは、経営者保証に依存しない融資の取り組みの方向性をまとめたもので、ガイドラインの要件を充足すれば、新規融資の際に、経営者保証を徴求しない取り扱いをすることが策定されており、実務においても浸透しつつあります。

 ただ新規融資の場合以外は必ずしも浸透しておらず経営者保証を理由に後継者候補が承継を拒否するケースが一定程度あり、経営者保証が事業承継の障壁となっていることに鑑み、令和元年12月、事業承継に焦点を当てた「経営者保証に関するガイドライン」の特則が公表されました。

 この特則では、①前経営者、後継者の双方からの保証契約の二重徴求を原則禁止すること、②後継者との保証契約は、事業承継の阻害要因となり得ることを考慮し、柔軟に判断すること、③前経営者との保証契約の適切な見直しをすること、④金融機関における内部規定規程等の整備や職員への周知徹底により債務者へ具体的な説明をすること、⑤事業承継を控える事業者においてガイドラインの要件の充足に向けた主体的な取り組みをすることなどが策定されました。

 中小企業、経営者及び金融機関においてガイドラインとともに活用され、経営者保証に依存しない融資の一層の実現に向けた取り組みが進むことが期待されます。

◆専門家支援と新たな信用保証制度

 また、中小企業庁は、令和2年4月から、「事業承継時の経営者保証解除に向けた専門家による支援」及び「事業承継時に経営者保証を不要とする新たな信用保証制度(事業承継特別保証制度)」の取扱いを開始しています。

 前者は、全国の事業承継・引継ぎ支援センターに経営者保証コーディネーターを設置し、経営者保証の解除に向け、「経営者保証に関するガイドライン」における解除要件の充足状況確認や金融機関との目線合わせをサポートするというものです。

 後者の制度は、「経営者保証に関するガイドライン」の充足状況について経営者保証コーディネーターによる確認を受けた場合は、信用保証制度における保証料が大幅に軽減されるというものです。

◆事業承継ガイドラインの改訂

 中小企業庁は、令和4年3月、5年ぶりに「事業事業承継ガイドライン」を改訂しましたが、その中でも前述した「経営者保証に関するガイドライン」の特則及び事業承継時の経営者保証解除に向けた対策が紹介されています。

 事業承継時に経営者保証を解除するためには、①法人と経営者との関係が明確に区分・分離されていること、②財務基盤の強化、③財務状況を正確に把握し、金融機関への適時適切な情報開示等により経営の透明性が確保されていること、を要求されています。これらの要件充足性の判断や金融機関との交渉に関しては、弁護士に相談することができます。

 後継候補者はいるものの、経営者保証があることで悩まれている方は、ぜひ、ご相談ください。

◆廃業時の対策

 一方、経営者保証に関するガイドラインについては、令和4年3月、「廃業時における『経営者保証に関するガイドライン』の基本的考え方」も公表されています。

 経営者保証に関するガイドラインは、経営者保証を整理する局面で、金融機関等に対して、一定の場合に、経営者が破産等法的手続によらずに債務整理をする方向性をまとめていますが、廃業時における経営者保証債務の整理の局面においても経営者保証に関するガイドラインが適用されることを明示し、保証債務整理について手続の明確化を行ったものです。

 残念ながら事業を廃業することとなった場合、経営者保証債務の履行が現実化することになりますので、経営者保証債務も整理することになります。従前は、経営者保証の整理は、ほとんどの場合破産等の法的手続により行っていました。

 法的手続をとった場合、信用情報機関に登録されますが、経営者保証に関するガイドラインを利用して債務整理をすることができれば、信用情報機関に登録されることはありません。

 経営者保証債務を整理する局面での経営者保証に関するガイドラインの利用は、弁護士にご相談ください。

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