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~破産手続における相殺権の行使~

中部経済新聞2020年9月掲載 ひまるん相談室
~破産手続における相殺権の行使~

【質問】

取引先の会社が破産したという書類が突然裁判所から届きました。当社は、この会社に対し買掛金債務を負っているのですが、それだけではなく、この会社に対して貸し付けているお金があります。貸付金の返済期限はまだ来ていません。

当社は、この会社に対し買掛金は支払わなければいけないのに、貸付金の回収はあきらめなければならないのでしょうか。

【回答】

取引先の会社が破産した場合、破産手続によらなければ債権を行使することができないのが原則です。破産手続では、個別的な債権行使は禁止され、破産債権として届出をし、調査、確定を経て、配当によってのみ債権の回収が可能となります。

しかし、貴社は、破産会社に対し、同時に債務を負っているということですので、例外的に破産手続によらず、破産債権と破産会社に対する債務とを相殺することができます。

相殺は、自分の債権と相手方に対し負っている債務とを対当額で消滅させることにより、他の債権者に優先して債権を回収したのと同じ効果を得ることができることから、担保的機能があるとされています。破産手続においては、この相殺の担保的機能を尊重して、破産債権者が破産者に対する債務とを相殺することが認められています。

さらに、期限付債権は、通常は期限が到来していなければ相殺することできません。しかし、破産手続においては、相殺の担保的機能が尊重され、期限が到来していなくても相殺をすることが認められています。そのため、貴社は、貸付金の期限が到来していなくても、買掛金債務と相殺することにより、回収したのと同じ効果を得ることが可能です。

なお、破産会社が破産手続開始決定を受けた後に債務を負担した場合や、破産手続申立てをしたのを知りながら債務を負担した場合などは、相殺を認めると他の債権者の平等を害するおそれがありますので、相殺することは禁止されています。債務を負担した時期には注意が必要です。