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言わせてちょ ~国家権力を縛る憲法とは~

中部経済新聞2019年3月掲載
言わせてちょ ~国家権力を縛る憲法とは~

 アメリカでは、トランプ大統領が、議会の承認を得ずに、メキシコとの国境の壁を建設するために非常事態宣言をした。これに反対する勢力により、非常事態宣言を憲法違反として提訴する動きが活発であると報じられている。

 国の権力行使に対抗する術である「憲法」とはいかなるものであろうか。

 まず憲法は、国家の根本的な組織・作用を定める法規範である。国家が存在するところには、広い意味で憲法は存在するといえる。

 国家権力は性質上、権力を有する側の者の利益のために仕え、権力を有しない側にいる一般国民の犠牲のもと、乱用されてきた。この歴史上の経験から学び、憲法は国家権力を縛るものとされてきた。そのため、近代国家のほとんどは、権力の行使を憲法に基づかせ、憲法は、国家権力を制限し、国民の権利と自由を保障する確立した原理(立憲主義)を有する。

 戦後に制定された日本国憲法も、国家権力を制限し、三権分立、国民主権の原理、基本的人権の保障が規定されている。

 日本国憲法は、人権の永久不可侵性を定めることから、他の法律に優先する強い効力を持つものとされている。例えば、平和主義を規定する憲法9条の規定(の解釈)により長い間、自衛隊の海外での武力行使や集団的自衛権の行使を認める法律は制定されなかった。

 さらに日本国憲法は強い効力を持つだけでなく、改正する手続的ハードルも高い。改正には、衆・参両議院の総議員の3分の2以上の賛成により国会が国民に提案し、特別な国民投票等でその過半数の賛成が必要とされている。憲法が施行され71年が経過するが、一度も国会により改正の発議さえされたことはない。

 知る権利やプライバシー権など新しい人権は、憲法に明確に規定されていないが、ハードルが高い憲法改正によらず、憲法解釈によって保障する方法がとられてきた。

 ただ最近になって、自衛隊や自衛の措置を憲法に書き加えるなど憲法改正に向けた動きがある。日本国憲法には改正の手続を定めた規定があり、時代の変化に応じて改正することを予定しているのであるから、国会や国民が憲法改正に向け議論することはタブー視されるものではない。

 とはいっても憲法は、国のあり方を決める重要なものであり、イメージだけで拙速に改憲の判断がされることがあってはならない。国民が、改憲により何が問題となるか、改憲により過度に、国家権力の制限が阻害されないか、国民の権利が侵害されないかについて情報を得て、判断できる状況が不可欠である。(S・O)