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「少年法」私たちはなぜ年齢引下げに反対するのか
~非行少年の実像から考える~が開催されました

子どもの権利イベント
「少年法」私たちはなぜ年齢引下げに反対するのか
~非行少年の実像から考える~が開催されました

会報「SOPHIA」 令和元年7月号より

会 員 吉 川 哲 治

 去る6月22日(土)、当会と日弁連の共催で少年法の適用年齢引下げ反対をアピールするイベントが当会会館で行われました。

 この問題が持ち上がってから毎年行ってきたイベントですが、今年も5階ホール席がほぼ埋まるほどの方々や、3名の現職の国会議員にもご出席いただき、大成功を収めることができました。

 以下、イベントの内容を簡単にご紹介させていただきます。

●基調講演

 まず、筑波大学の土井隆義教授に、社会学の観点から、現在の若年層が置かれている状況の分析とともに、そのような状況に置かれている少年達に対する働きかけはどうあるべきかというお話をしていただきました。

 講演で紹介された各種データには驚かされるものも多く、若年層の相対的貧困率が上昇していること(約6人に1人の割合)は既によく知られているところですが、裕福な家庭に育ち、学校外での学習時間が全くない子どもの方が、貧困家庭に育ち、学校外で2時間以上学習時間を取っている子どもよりも学力が高いという調査結果はなかなか衝撃的でした(そのような差が生じるのは、義務教育までは、単純な学習時間だけでなく、家庭環境が子どもの学習能力に大きな影響を与えるからだそうです)。

 そして、人口比で見た少年の刑法犯件数はここ十数年一貫して激減し、再非行少年率(少年の一般刑法犯検挙人員に占める再非行少年の割合)は上がっているものの、再非行の件数自体は減っており、それ以上に全体の件数が激減しているので、率が上がってしまうという事情があることなどもご説明いただきました。

 現在の若年層は、社会に対する不満を溜め込まなくなった一方で、不安を煽られ、溜め込むようになってしまっており、また、生活スタイルを同じくする者同士で関係を閉じ、異質な他者を排除する傾向を強めていることが挙げられるとのことでした。

 その上で、このような状況に置かれている若者達に対しては、今こそ現行少年法の思想(社会とのつながりを保ちつつ矯正教育を進めていく)が求められており、それによって私たちの社会自体がもっと生きやすいものになっていくであろうとの強いメッセージが伝えられました。

●基調報告

 次に、日弁連子どもの権利委員会委員の金矢拓弁護士から、現在の少年法制と年齢引下げの議論状況について基調報告をしていただきました。

 法制審議会では、現行少年法の手続や処分が有効に機能していることは共通認識となっており、年齢引下げに賛成する意見はいずれも説得力に乏しいこと、年齢引下げに伴う弊害に対して刑事政策的措置を講じるというのは本末転倒であるといった報告がなされました。

●パネルディスカッション

 基調講演、基調報告の後は、土井教授と金矢弁護士に加え、当会の多田元会員をパネリストとし、高橋直紹会員の司会進行で、パネルディスカッションが行われました。

 多田会員から、土井教授の基調講演に沿う形でのミニ講演のような発言がなされたり、土井教授からは、基調講演の内容も踏まえて、今の少年非行の傾向として自傷行為的であることが指摘でき、それぞれの少年の問題ではなく社会全体の問題であると認識する必要があるといった話や、年齢引下げに賛成する意見のほとんどは、少年法制の内容を知らないからであり、知ることで意見が変わるといった話がなされたりするなど、短い時間ながらも充実した意見交換がなされました。