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もしも、自分だったら~
犯罪被害報道と個人の尊厳

中部経済新聞2018年3月掲載
もしも、自分だったら~
犯罪被害報道と個人の尊厳

世間の注目を集める犯罪が発生すると、新聞テレビで被害者の実名や顔写真、子ども時代のエピソードや近所の人が語る人となり、SNSの書き込みなどが流され続けることは珍しくない。被害者本人や遺族が弁護士を通じて実名報道や顔写真の公表、プライバシーの暴露をやめて欲しいと申し入れをしても受け入れられず報道が続く例さえある。

こういった報道は、事件の発生や容疑者の逮捕の直後に集中的に行われることが多く、そのため犯罪被害者やその家族、関係先にいわゆるメディアスクラムと呼ばれる加熱取材も発生している。

報道の自由は自由な言論の場や実りある言論に必要な情報を国民に提供する重要な役割を担っており、重要な憲法上の権利である。

しかし、もし、自分だったら・・・。

犯罪の被害にさえ遭わなければ公にされることのなかったプライバシーが、自分の知らぬ所で暴露される。事実誤認の報道があれば、訂正することさえできず、知人もそれを鵜呑みにしてしまう。ネットで拡散され、反永久的に晒される。被害に遭ったこと自体受け入れ難く、心身も疲れ切っている時期に、自宅に帰ることもできず、取材から逃れるためにホテルや知人宅を転々する。

犯罪被害に遭ったというだけでこれらの我慢を強いられることを納得できるだろうか。

個人のプライバシーもまた、個人の尊厳に関わる憲法上の重要な権利であり、「私生活をみだりに公開されない権利」「自分についての情報を適切にコントロールする権利」等と定義されている。

事件の本質や背景を明らかにするのにプライバシーが不可欠な場合は匿名にする、実名報道の場合はプライバシーの保護に配慮するなど、報道の自由とプライバシー権の両方の調和を図る工夫はあるはずだ。

他方、匿名報道となった事件の被害者や遺族が、後に実名で発信を始める例を指して、当初の匿名は行き過ぎであったと評される場合もある。

しかし、発生直後の大変な時期に取材・報道から守られ、熟慮の後発信をするというのは、まさに、自分についての情報を適切にコントロールすることであり、何ら矛盾することではない。

事件報道につき、もっと犯罪被害者の個人の尊厳が図られる社会となることを期待する。

(K・H)