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第1回 連載開始にあたって-新法・旧法の適用関係

新連載 今から聞きたい債権法改正
第1回 連載開始にあたって-新法・旧法の適用関係

会報「SOPHIA」 平成30年6月号より

司法制度調査委員会 副委員長 竹内裕美

 皆様ご承知のとおり、民法・債権関係の規定が改正され、その施行が目前に迫ってきました(一部は既に施行)。120年ぶりの抜本的改正と言われていますが、実際のところ、何が変わって、何が変わらなかったのでしょうか。実務上、どのような点に注意をすればよいのでしょうか。来たる施行前に改正の重要ポイントを押さえるべく、全13回の本連載企画がスタートします!

1 民法財産法の抜本的改正

 平成29年5月26日、民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)が第193回通常国会で成立し、同年6月2日に公布されました。改正法は、一部の規定を除いて平成32年(2020年)4月1日に施行されます。今回の改正は、平成21年11月から5年以上にわたり開催された法制審議会民法(債権関係)部会の審議を経た民法財産法に関する120年ぶりの大改正です。

2 今後の連載スケジュール

 改正項目は約200項目と多岐にわたりますが、それらを12のテーマに整理して、改正法が実務に与える影響、改正の経緯や趣旨、問題点等について、次号以降、当委員会・民事部会の委員が連載を担当します。
 第2回「法律行為」では錯誤規定が全面的に見直され、第三者保護規定や代理に関する判例法理が明文化されました。第3回「時効」では消滅時効の起算点と時効期間、時効障害事由(中断、停止)が抜本的に見直された重要改正項目です。第4回「法定利率」では、改正法が採用した緩やかな変動利率制を理解することがポイントです。第5回「債務不履行と損害賠償」では、填補賠償や代償請求権の具体的要件が明文化されました。第6回「解除と危険負担」も重要改正項目です。債務不履行解除について債務者の帰責事由は不要とされました。また、債権者主義を定めた規定、すなわち現行法534条及び535条は削除され、同536条の危険負担制度は反対給付債務を消滅させるものではなく、債権者に履行拒絶権を与える制度として再構成されました。明文化された催告解除及び無催告解除の要件も重要です。第7回「債権者代位権・債権者取消権」では、代位権の要件や行使方法に関する判例法理が明文化され、取消権について破産法上の否認権との整合性が図られました。第8回「多数当事者の債権債務・相殺・弁済」では絶対的効力事由の整理がポイントです。また、相殺について、いわゆる無制限説が明文化され、不法行為債権等を受働債権とする相殺禁止の対象が限定されました。第9回「保証債務」では保証人保護の観点から様々な規定が設けられ、実務への影響が大きい項目です。第10回「債権譲渡・債務引受」では資金調達拡充の観点から、譲渡制限禁止特約の効力が見直され、将来債権譲渡の有効性が明文化されました。第11回「定型約款」では新設された規定です。適用範囲とその規律内容を正確に把握することが大切です。第12回「売買(担保責任)」では契約責任説をふまえて、瑕疵担保責任を債務不履行責任の特則として見直しました。改正法では「瑕疵」ではなく「契約不適合」という概念が用いられます。また、買主の各救済手段も整理されました。第13回「契約各論」では、明文化された賃貸借に関する各ルール、請負人の担保責任を整理することが大切です。また、消費貸借、使用貸借、寄託の要物性が見直されました。

3 改正法の施行時期(2つの例外)

 前記のとおり、改正法は平成32年(2020年)4月1日に施行されます。しかし2つの例外があることに留意してください。1つは、定型約款です。施行日前に締結された定型取引に係る契約についても、施行日後は改正法が適用されます。しかし、「当事者の一方(契約又は法律の規定により解除権を現に行使することができる者を除く。)」が施行日前に反対の意思を表示した場合には改正法は適用されません(附則33条2項)。もう1つの例外は保証です。改正法465条の6は、事業のために負担した貸金等債務を主債務とする保証契約等について、公正証書(保証意思宣明公正証書)の作成を義務付けました。上記公正証書は契約締結日前1か月以内に作成する必要がありますので、施行日前である平成32年(2020年)3月1日から、保証人となろうとする者は公正証書の作成を嘱託することができます(附則21条)。

4 どちらの民法が適用されるか(経過措置)

(1)基本原則
 改正法施行後、私たちは取り扱う案件にどちらの民法が適用されるのかについて留意する必要があります。そこで、連載1回目は、経過措置について整理します。原則として、改正法が適用されるのは施行日後に法律行為や意思表示がなされた場合ですが、以下の各規定に注意をしてください(附則2条以下)。
(2)民法総則
ア 代理
 本人が代理人に代理権を授与する行為を基準とするのか、代理人の代理行為を基準とするのかが問題になりますが、前者を基準とします(附則7条1項)。つまり、施行日前に代理権授与した場合は現行法が適用されます。ただし、無権代理人の責任については、無権代理行為時が基準となります(附則7条2項)。当事者の予測可能性に配慮したものです。
イ 消滅時効
 原則として、施行日前に債権が生じた場合(施行日後に債権が生じた場合であって、その原因である法律行為が施行日前にされたときを含む)には現行法が適用されます(附則10条1項)。つまり、債権発生と債権発生原因である法律行為とのいずれか早い方が基準となります。しかし、注意すべきは不法行為等です。施行日前に不法行為による損害賠償請求権が生じた場合であっても、施行日において現行法724条に定める期間が経過していないときは改正法が適用されます(附則35条)。これは被害者保護を優先したものです。
(3)債権総則
 債権者代位権については、被代位債権の発生時が基準であり、詐害行為取消権については詐害行為時が基準となります(附則18、19条)。これは、取消債権者や転得者ごとに適用される法が異なる事態を避けるためです。
 債権譲渡については、債権譲渡の原因となる法律行為(債権譲渡契約)が基準となります(附則22条)。譲渡される債権が発生したときではありませんので注意してください。
 相殺に関しては、不法行為債権等を受働債権とする相殺(改正法509条)については、受働債権が生じたときが基準となりますが、差押えを受けた債権を受働債権とする相殺(改正法511条)については、自働債権が生じたときが基準となります(附則26条)。前者は当事者の予測可能性に、後者は相殺への期待に配慮したものです。
(4)契約総則・契約各論
 基本的には契約締結時が基準となります(附則29条以下)が、前記のとおり、定型約款については、施行日前に締結された定型取引に係る契約についても適用されます。これは従前の法律関係が不明確であるため、むしろ新たに設けたルールを広く適用することが当事者双方の利益に資すると考えられているからです。契約各論について注意すべきは、賃貸借の更新です。施行日以後に更新合意する場合には、改正法ではなく現行法が適用されます(附則34条)。

5 改正されなかった項目について

 改正項目ばかりが注目されますが、多くの重要論点について改正が見送られました。例えば、暴利行為、惹起型動機の錯誤、複数契約の解除、事情変更の法理、ファイナンス・リース契約やライセンス契約等です。それらは依然として重要論点であり、私たち実務家にとっての今後の課題となります。
 さて、次号以降、各改正項目についての連載を開始します。ご期待ください。