愛知県弁護士会トップページ> 愛知県弁護士会とは > ライブラリー > 死刑廃止を考える日2018 映画「7番房の奇跡」と講演

死刑廃止を考える日2018 映画「7番房の奇跡」と講演

会報「SOPHIA」 平成30年 12月号より

死刑制度廃止委員会 委員 市川 哲宏

1 「死刑廃止を考える日2018」

 「死刑廃止を考える日2018」と題して、12月15日、第1部で映画「7番房の奇跡」の上映と、第2部で日弁連の死刑廃止及び関連する刑罰制度改革実現本部事務局長の小川原優之弁護士(第二東京)による講演が行われました。

 まず、当会の木下芳宣会長より開会挨拶がなされました。日弁連において、2016年10月の人権擁護大会(福井)で「死刑廃止を含む刑罰制度の改革」の宣言がなされ、死刑廃止の活動を行っていること、当会でも今年度に死刑制度廃止委員会が新たに発足したことについて紹介がなされました。

2 「7番房の奇跡」

 「7番房の奇跡」は、2013年の韓国の作品で、知的障がい者である父と6歳の娘の親子が二人暮らしをしているところ、その父が真実に反し強姦殺人の容疑で逮捕され、ついには死刑判決を受けてしまうという内容のものであり、冤罪に巻き込まれた家族や関係者の強い苦悩や悲しみが描かれていました。また、韓国における死刑囚への処遇が、日本のような単独処遇ではなく集団処遇であること等、刑事処遇制度の違いも描かれているものでした。

3 講演

 小川原弁護士は、被害者の家族に寄り添うべきとの気持ちから死刑制度存置に賛成だという多くの市民の考えについて、自然な発想であると捉えた上で、しかしながら、被害者家族に寄り添う社会的な支援と刑罰制度は別個として考える必要があるのではないか、社会の一員として刑罰制度をどのようにしなければいけないのかについて、今、きちんと考える必要があるのではないかとの考えを示されました。また、国連犯罪防止刑事司法会議(コングレス)が2020年に日本(京都)で開催されるにあたり、日本の司法制度に国際社会の注目が集まる中、日本に死刑制度が存在するという状況は国際的に見ていかがなものかとの問題提起がなされました。

 また、死刑の代替刑を正面から考える必要性が訴えられました。代替刑として、具体的には仮釈放の可能性のない終身刑というものが考えられるところ、これを人権問題を扱う会である日弁連が提案することは許されるのか、という重要な問題があることを踏まえた上で、それでも日本から本当に死刑制度を無くすためには、被害者への寄り添いに関する具体的検討と代替刑についての議論を正面から検討する必要があると述べられました。

 また、12月5日に、超党派の国会議員による「日本の死刑制度の今後を考える議員の会」が立ち上がったことが紹介されました。

 死刑制度について、国会議員において公の議論をしてもらう必要があるところ、同議連では死刑存続派の議員も加っており、まさに議論ができる議連が出来上がっていることが紹介されました。

 その後、会場の参会者を交えての質疑応答がなされました。会場からは、死刑制度を存続させるべきとの立場からの意見も出され、活発な意見交換がなされました。

4 最後に

 当会死刑制度廃止委員会委員長の細井土夫会員より、閉会の挨拶がなされました。代替刑としての仮釈放の無い終身刑の議論につき、今の無期懲役刑でも獄中で病死に至るケースが仮釈放されているケースよりも圧倒的に多く、制度に矛盾が生じてきている旨を紹介し、今後も死刑の問題を継続して議論するために、翌年3月にはイギリス、EUの大使ないし公使、教誨師の方をお呼びし、さらに議論を深めたいと述べられました。