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言わせてちょ~国有地払い下げ問題はどこに消えた?~

中部経済新聞2017年9月掲載
言わせてちょ~国有地払い下げ問題はどこに消えた?~

 少し前の話だが、森友学園の籠池理事長夫妻が逮捕され勾留された。容疑は、補助金に関する詐欺だという。建物建築工事の金額をごまかして過大な補助金を受け取っていたとしたら確かに許しがたいことではある。しかし、法律家の端くれとしては、この勾留については疑問を感じる。

法律上勾留の要件は、

一、定まった住居がないとき。

二、罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。

三、逃亡し、又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。

とされている。

 理事長夫妻には自宅もあるし、マスコミの取材にも応じており逃亡の可能性があるとは思えない。また、すでに家宅捜索で証拠書類は押収されているはずであるし、建築工事に際して複数の契約書が作られていることは理事長も認めていたから、今更証拠を隠滅するおそれも無い。法律上逮捕勾留の必要など無いと思われるのである。

 しかも、報道によれば、補助金不正受給に絡む詐欺容疑だと聞く。しかしより大きな問題は、国有財産が不当に安く譲渡されたことである。国の官僚がこれに関わっていたと疑われているが、これが事実であれば、補助金詐欺よりもはるかに重大な問題である。しかも、官僚はこれに関する文書の存在を否定し、関わったことについても記憶に無いと国会で説明している。内部書類の廃棄や口裏合わせをするなど、証拠隠滅の可能性が高いのは官僚の側にこそあるが、これについては家宅捜索すらもされていない。逆ではないかと思うのである。

 理事長夫妻が逮捕された以後、森友問題はほとんど情報が流れてこない。結果的に森友問題は過去のものになりつつあり、政治家や官僚は安堵していることと思う。しかし、これでは検察が政治家や官僚の意向を忖度して国有地払い下げ問題を闇に葬り、理事長夫妻による補助金詐欺事件に矮小化していると疑われても当然ではないかと思う。

 検察が巨悪を放置して当事者の口封じをし、勾留の要件が無いのに裁判所が安易にこれを認めてその片棒を担いだ、市民がそう誤解するだけでも司法に対する信頼は失われる。かつて「巨悪を眠らせない」、そう述べた検察トップがいた。検察や裁判官の矜持はどこに消えたのだろう。(M・G)