愛知県弁護士会トップページ> 愛知県弁護士会とは > ライブラリー > 中部経済新聞2017年2月掲載
不正競争防止法上の営業秘密ー規制される七つの行為類型ー

中部経済新聞2017年2月掲載
不正競争防止法上の営業秘密ー規制される七つの行為類型ー

社長 前回、不正競争防止法について教えてもらったけど、営業秘密について、もう少し詳しく教えてくれないかな?
弁護士 営業秘密はどういうものか、覚えていますか?
社長 営業秘密となるためには、秘密として管理されていること(秘密管理性)が必要だということだね。うちの会社も顧客情報などの管理を徹底するようにしたから、覚えているよ。
弁護士 他にも、事業活動に有用な技術上または営業上の情報であること(有用性)、公然と知られていないこと(非公知性)の要件を満たす必要があります。
社長 そう、そう。①秘密管理性、②有用性、③非公知性の3つだったね。
弁護士 では今回は、営業秘密について、どういう行為が不正競争として規制されているかについてお話しましょう。
【不正な手段により取得された営業秘密の規制】
社長 営業秘密を無断でコピーして盗み出したりするということだよね。
弁護士 そうですね。そのように不正な手段を用いて、営業秘密を取得する行為については、不正競争防止法2条1項4号で規制されています。
社長 ほかには?
弁護士 そのほかにも5号から10号で行為の類型ごとに規制されているんですよ。
社長 そんなにも?
弁護士 5号では、不正に取得されたことを知りながら、または重大な過失によって知らずに、営業秘密を取得、使用、開示する行為が規制されています。
社長 自分で不正に取得したものでなくても、不正に取得された営業秘密だと知って取得し使用してはいけないということか。
弁護士 そうです。転職してきた従業員が前の職場から不正に取得した営業秘密だと知りながら、その営業秘密を取得し使用した場合には5号に該当します。
社長 なるほど。気をつけないといけないね。
でも、受け取ったときに不正に取得された営業秘密だと知らなければ、使ってもいいってことかな?
弁護士 いいえ。その場合も規制されています。6号では、不正に取得された営業秘密であると知らずに取得した後に、不正に取得されたものであると知ったにもかかわらず、または重大な過失によって知らずに、その営業秘密を使用、開示する行為を規制しています。
社長 ということは、名簿業者から営業秘密と知らずに名簿を購入した後で、報道などで不正に取得された営業秘密であると知った場合には、その名簿を使用してはいけないということだね。
【不正な手段によらずに取得された営業秘密の規制】
弁護士 さらに、不正に取得された営業秘密でなくても、7号以下で規制されているので注意が必要です。
社長 えっ、不正に取得された営業秘密でないって、どういう意味かな。
弁護士 例えば、営業秘密の入力作業を請け負っていた下請企業がデータをコピーして販売する場合などです。
社長 そうか。その場合は、契約に基づいて営業秘密を取得しているから、不正に取得されたものではないんだね。
弁護士 そうです。そのように、営業秘密の保有者から、営業秘密であることを示されて正当に取得した者が、自ら利益を得たり、保有者に損害を与える目的で、当該営業秘密を使用したり開示する行為が、7号で規制されているんです。
社長 営業秘密を取り扱う従業員も同じだね。
弁護士 そうです。そのため、その従業員が利益を得るために営業秘密を売却したり、会社に損害を与えてやろうと思ってインターネットで公開したりすると7号に該当することになります。
社長 なるほどね。
弁護士 また、7号で規制されている営業秘密であると知りながら、または重大な過失によって知らずに、その営業秘密を取得、使用、開示する行為(8号)や、7号で規制されている営業秘密であると知らずに取得した後に、そのことを知って、または重大な過失により知らずに、その営業秘密を使用、開示する行為(9号)についても、5号や6号と同様、規制されています。
社長 なるほど。どんな行為が規制されているのか分かったよ。
【営業秘密侵害品についての規制】
弁護士 実は、平成27年の改正で、例えば技術上の営業秘密である図面を用いて作られた電化製品のように、不正に取得した技術上の秘密を利用して製造された物品(営業秘密侵害品)についても、10号で規制されることになったんですよ。
社長 えっ営業秘密だけでなく、製造された物品まで規制されているって?具体的にどういう行為が規制されているんだい?
弁護士 営業秘密侵害品の譲渡、引渡し、譲渡もしくは引渡しのための展示、輸出・輸入、またはインターネットなどを通じて提供するといった行為が規制されています。
社長 売ったり、引き渡したりするだけでなく、売るための展示や、輸出・輸入、ネットショップなどでの提供まで規制されているのか。
でも、技術上の営業秘密を利用して製造された物であるかなんて、分からないこともあるんじゃないかな?知らずに仕入れた物が営業秘密侵害品だなんてことになると、大変なことになりそうだけど...
弁護士 そうですね。そのため、その物を譲り受けたときに、その物が技術上の営業秘密を不正に使用されて生産された物であることについて知っていたり、知らないことに重大な過失がある場合に限り、10号に該当するとされています。
社長 なるほど。そのようにして取引の安全を図っているんだね。
【そのほかの改正について】
弁護士 その他の改正として、犯罪行為により得た財産などを没収できるという規定や営業秘密侵害罪の未遂罪の規定が新設されました。 さらに、不正に取得した情報であることを知って取得した転得者についても処罰の対象としたり、営業秘密侵害罪を告訴が必要な親告罪から告訴が不要な非親告罪と変更したりするなど、営業秘密の保護を強化しています。
社長 他社の営業秘密を侵害しないように注意する必要があるということだね。今後問題となりそうな場合には、きちんと相談させてもらうよ。
不正競争防止法2条に規定されている行為

①混同惹起行為(1号)

広く知られた商品表示によく似た表示、類似表示を使用した商品を作り、売るなどして、市場において混同を生じさせる行為

②著名表示冒用行為(2号)

他人の著名な商品表示を、自己の商品表示として使用する行為

③他人の商品の形態を模倣した商品を譲渡等する行為(3号)

他人の商品の形態を模倣した商品を作り、売るなどする行為

④営業秘密に係る不正行為(4号~10号)

営業秘密を盗んだり、使用・開示したり、盗ませたりする行為

⑤技術的制限手段に対する不正行為(11号、12号)

デジタルコンテンツのコピー管理技術、アクセス管理技術を無効にすることを目的とする機器やプログラムを提供する行為

⑥ドメイン名に係る不正行為(13号)

不正の利益を得る目的または他人に損害を加える目的で、他人の特定商品等表示と同一または類似のドメイン名を使用する権利を取得・保有し、又はそのドメイン名を使用する行為

⑦誤認惹起行為(14号)

商品の原産地、品質、製造方法等について、誤認させるような表示をしたりする行為

⑧信用棄損行為(15号)

競争関係にある者の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は、流布する行為

⑨代理人等の商標冒用行為(16号)

パリ条約の同盟国等において商標に関する権利を有する者の代理人が、正当な理由なく、その商標を使用等する行為