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忘れられないお誕生日

子どもの事件の現場から(201)
忘れられないお誕生日

会報「SOPHIA」 令和2年4月号より

子どもの権利委員会委員 福 谷 朋 子

 彼女の未成年後見人に選任されたのは、彼女が19歳のときでした。幼いころから施設で生活してきた彼女は、高校中退に伴い養護施設にいられなくなり、その後は職と住を転々としてきたようでした。その経緯もあってか、選任された当初は、ハリネズミのように、トゲトゲでした。

 話している間中ずっとスマホを触っていて目を合わせてくれない、質問にまともに答えない、後見人となった私の名前を覚えようとしない(困ると事務所に電話をしてくるのですが、「〇〇さんに代わってください」の「〇〇さん」が、毎回私の名前とは違うのです)、といった態度の彼女に、当初はどうやって接すればよいのかと途方にくれました。せめて高校を中退したときに後見人に選任してもらえていれば、成人に達するまで数年をかけて信頼関係を築いていくことができたのに、と何度も思いました。

 ほどなく、彼女は生活する場所がなくなりました。関係機関で集まり協議し、ようやく見つけた場所は、彼女の希望に沿うものではありませんでした。彼女は怒り、傷つき、さらにトゲトゲになっていました。

 彼女の気分転換も兼ねて、その後しばらくは意識的に彼女に会いに行きました。会ったからといって何ができるわけでもなく、することと言えば、専ら彼女の話を聴くことでした。父の記憶は一切なく、母の記憶もほとんどないこと、幼いころの記憶、育った施設でのうれしかったこと、いやだったこと、高卒認定資格が欲しくて頑張ったこと、職住を転々とする中でのとてもつらかった体験、仕事でほめられたこと、好きなこと、得意なこと、将来の夢・・・。彼女の話は途切れることがありませんでした。19歳のころの自分では想像もつかなかったような壮絶な体験を、いくつもしてきた彼女がトゲトゲするのは当たり前と思いました。それを彼女に伝えたら、機関銃のような話の勢いがふと止まり、彼女は涙をこぼしました。

 その後も、彼女をいとおしく思ったり、その態度にイラっとしたり、しょっちゅうかかる電話に疲弊したり、そんな自分を情けなく思ったりしながら、後見人としての毎日は続きました。短いけれどなかなか濃い期間だったと思います。

 彼女の誕生日は大みそかでした。事情によって、皆にワイワイお祝いしてもらうことは、難しい状況でした。

 大みそか、私は彼女のリクエストのポテチと飲み物、そして名前入りのチョコのホールケーキを持って、彼女を訪ねました。お誕生日ケーキを注文したお店は、「Happy Birthday」というメッセージとともに、その日に誕生日ケーキを注文した人の名前をお店の黒板に書いて祝ってくれていました。その黒板も写メで撮って行きました。

 私と2人だけのお誕生日は、年頃の彼女にとって不本意なものだったと思います。けれども彼女は、ケーキ屋さんの黒板の写真をとてもうれしそうに見て、「2」と「0」の数字のろうそくの灯を吹き消し、笑顔でスマホのカメラに向かってポーズしてくれました。

 これからも、彼女の人生には困難が待ち受けていると思います。思い通りにいかないことに、時には自暴自棄になるかもしれません。それでも最終的に前に進もうとする彼女を、いっとき親代わりとしてかかわった者として誇りに思うとともに、今後の人生に幸多かれと願ってやみません。