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長久手市での学校巡回弁護士(スクールロイヤー)を経験して

子どもの事件の現場から(200)
長久手市での学校巡回弁護士(スクールロイヤー)を経験して

会報「SOPHIA」 令和2年3月号より

子どもの権利委員会 委員 敦賀昭代

  1.  令和元年6月から、試行的に長久手市の学校巡回弁護士(いわゆるスクールロイヤー、以下「SL」といいます)を粕田陽子会員とともに担当しています。
     学校で発生する様々な問題について、子どもの最善の利益を念頭に置き、教育や福祉等の視点を取り入れた法的観点から学校に対して継続的に助言を行うことによって、学校運営の安定等を通じて子どもの人権を保障し、もって学校における子どもの成長と発達を支えることを目的とする弁護士、という子どもの権利委員会が考えるSL像をご理解いただき、長久手市と当会が協定を締結し、SLの試行実施を開始することとなりました。
  2.  具体的な実施方法は、原則として、月に1回拠点校にSLが訪問し、その場で教育委員会指導主事、学校関係者からの面談相談を受けるというものです。ただし、緊急に対応が必要と考えられる案件、面談相談後の継続相談で次回の面談相談前に学校側が回答を求めたい案件については、メール、電話での相談も可能としています。学校からの相談に対して子どもの最善の利益の観点から助言するのが今回のSLであり、学校の代理人にはなりません。また、子どもたちからの聞き取りをしたり、学校と保護者との面談に立ち会ったりすることもありません。
  3.  長久手市は公立の小学校、中学校合わせて9校という中規模の自治体です。試行的SLの導入前は、月1回の面談相談にどれだけの相談があるのか、現場の教員が相談事例を挙げてくれるのかと若干の不安を持っていました。しかし、実際に令和元年6月から令和2年2月まで9回にわたり行った拠点校での相談では毎回新件相談があり、合計で15件の相談事例がありました。
     どの相談事例でも教員の皆さんが、子どもたちのためにという熱い思いで対応されていることがよく分かります。それにもかかわらず、子どもたちや保護者への対応に苦慮されている困難な事案ばかりで、学校で日々教員の皆さんがご苦労されていることを改めて知る機会となりました。その一方で、そういった熱い思いがありながらも、学校側の初期対応が発端となり、保護者の信頼が失われていると思われる相談事例もありました。こじれてしまった相談事例をお聞きすると、早期に相談してもらい、問題が大きくならないよう対策するのがSLの役割だと感じることから、面談相談の際に、報告書の形式にこだわらず、「早めにご相談を」と学校関係者の方々にお伝えするようにしています。
     長久手市側からは、面談で法的な意見を聞けるのはありがたい、対応に困った際にSLからの助言をもらうことで自信をもって対応できる、といった良い反応をいただいています。実際に、面談相談の回を重ねるごとに、面談相談に来られる学校関係者が増え、会いに来て良かったとおっしゃっていただいています。少しずつですが、学校関係者の中でSLに対する理解が広がり、子どもたちのためにという共通認識の下で学校とSLが協力できる体制が整ってきていると感じています。
  4.  今後各自治体でSLが導入され、その役割が重要視されることが予想されます。多くの子どもたちが長い時間過ごす学校生活が、子どもたちの育ちにとってよりよい環境になるよう、子どもの最善の利益を念頭に置きつつ活動できるSLが増えていくことが望まれますし、私もその一人でありたいと考えています。