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紛争解決センター20年の歩みとこれから
会報「SOPHIA」 平成29年12月号より
紛争解決センター運営委員会 副委員長 後 藤 潤一郎
1 愛知県弁護士会紛争解決センター(以下「センター」)は平成9年4月に設立され、以後20年の歴史があります。設立時は名古屋弁護士会あっせん・仲裁センターの名称でした。
その2年後には、全国の弁護士会支部でははじめて西三河(当時岡崎)支部にもセンターが設立され、また平成28年には一宮支部での期日開催の取扱いも開始されました。
以下、センターについてその歴史を簡単に紹介し、今後の展望について触れてみたいと思います。
2 会内でセンター設立の機運が高まって、平成8年の設立準備会の発足に至りました。この準備会のメンバーは先輩格である第二東京弁護士会が開催した仲裁センター合宿に参加し、他会におけるセンター活用の調査を行い、また制度・運用に関わる規則等の整備に努めました。そして発足記念シンポジウムを経て、弁護士会ADRとしては、全国で9番目のセンター設立となりました。
紛争解決手続は、①和解あっせん、②紛争当事者の仲裁合意に基づく仲裁の2本立てです。
3 設立後のセンターの活動は、そのころの会報から窺い知ることができます。平成9年7月号は「成立第一号事件あっせん委員に聞く」、同年12月号は「『出前』で仲裁判断第一号」、平成10年7月号「利用者の声を聞く」、同年9月号「解決事例の紹介と利用状況等について」、同年10月号「広がる仲裁の輪」、同年11月号「有益費の償還が争いになった事例の紹介」、同年12月号「新生児の後遺症に関する和解解決事例」、平成11年1月号「債務整理の条件が争いになった事例紹介」など、ADRを利用した案件の具体的な解決の姿を精力的にアピールしてきました。このように紛争の具体的な解決が次々に得られるようになって来た時期である平成11年4月に西三河(当時「岡崎」)支部にもセンターが設立されました。
両センターを併せた年間申立件数は、全国の弁護士会ADRセンターの中でもほぼトップの件数を誇ってきました。
民事や家事に関する幅広い分野の申立てがありますが、医療事件や建築紛争といった専門的な紛争も多く、他会のセンターに比べ、当事者の一方あるいは双方に弁護士が就いているケースが多いのが特長です。
4 このように支部でセンターが設立されたころから「あっせん・仲裁人研究会」を定例的に開催するようになりました。ほぼ年1回か2回、折々の時期に相応しいテーマを設けて開催されています。レビン小林久子氏や廣田尚久弁護士等の外部講師をお呼びしてあっせん・仲裁の技法を学んだり解決事例研究に関することが中心になりますが、専門家あっせん・仲裁人の役割や医療過誤に関するテーマも取り上げられてきました。今回の20周年記念シンポジウムのテーマである「災害(震災)ADR」に関しても、実際に経験のある仙台弁護士会の斉藤睦男弁護士他を2回に亘って講師に招いて同テーマでの研究会を実施してきたところです。
5 仲裁判断は、裁判所の執行決定を得れば強制執行力が付与されます。しかし、和解あっせんにより成立した和解契約には、執行力がありません。そのため、金銭の分割弁済等を合意した場合、約束どおり支払われるかどうか不安です。和解内容をもとに執行力を付与するために仲裁合意をして仲裁判断に移行することもありますが、平成13年頃には名古屋簡易裁判所との間で和解内容について即決和解の利用を、また、名古屋家庭裁判所との間で即日調停の利用について協議し、ADRでの和解解決の実効性を高める措置なども講じられてきました。
6 司法制度改革審議会は平成13年、「ADRが国民にとって裁判と並ぶ魅力的な選択肢となるよう、その拡充、活性化を図るべきである」とする意見書を出し、これを受けて平成16年「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律」いわゆるADR法が公布され、平成19年4月から施行されました。同法は、弁護士又は弁護士法人でなくても、法務大臣の認証を受ければ、「認証紛争解決事業者」として報酬を得て和解あっせん事業ができ、①時効の中断効、②調停の前置に関する特則、③訴訟手続の中止といった法的効果が付与されます。弁護士会は、認証を受けなくても和解あっせん事業を行えますが、当センターは、それまで全国の弁護士会ADRをリードしてきた自負とこれからも日本の民間ADRをリードして行きたいと考え、平成20年6月に法務大臣の認証を受けました。そして、認証取得と同時に、現在の「紛争解決センター」に名称変更をしました。
7 センター組織の充実もこの間高められてきました。平成21年7月から、弁護士6名からなるADR調査室を設け、申立書の調査点検や疑問点の整理を行い、その事案に適切と思料されるあっせん・仲裁人の選任に当たるなどの業務を専門的に行ってきております。
8 また、紛争の多様化、専門化に対応するため、様々な専門ADRを立ち上げ、運用しています。平成19年には、日弁連ADRセンターに「医療ADR特別部会」が設けられたことに呼応して、医師専門委員制度の充実強化を図りました。さらに、金融商品取引法の改正による金融機関と利用者とのトラブルを解決するための金融ADRを、平成22年9月から開始しました。そして、日本が「国際的な子の奪取の民事的側面に関する条約(ハーグ条約)を批准したことに伴い、平成27年から、外務省の委託を受けて、国際家事案件への取組も進めており、平成29年からは、イギリスのADR機関と共同して手続を実施する二国間調停も始まりました。
9 センターは、現在、災害ADRを立ち上げることを検討しています。
大規模災害が起きた際、紛争も生じてくることが想定されます。
そのような時に、センターのADRを利用することにより、早く、柔軟な手続で、経済的な負担も少なく、紛争を解決することができれば、被災者の方の思いに応えることができるだろうと思います。
そこで、申立てのサポート、申立手数料の免除、成立手数料の減額等、被災者が利用しやすい制度の設計について現在検討中です。
12月8日の20周年記念行事のシンポジウムのテーマも災害ADRとしており、講演やパネルディスカッションでのご意見を、検討に役立てたいと考えております。
10 センターが設立されて20年、ADR法が施行されて10年経ちました。この間、弁護士会ADRは34弁護士会に増え、また、ADR法に基づく認証ADRも140機関を超えました。「ADR」と言う言葉も、市民の間で認知度が高まりつつあります。しかし、これら民間ADRへの年間申立件数は合計1500件程度であり、まだまだ、「裁判と並ぶ魅力的な選択肢」と成り得ていないというのが実情でしょう。
超高齢化社会を迎え、今後、介護を巡る契約や事故に関するトラブルが増えることが予想されるなど、法的トラブルは多様化し、ADRによる公平かつ早期解決のニーズは高まるでしょう。
センターは、これまで20年間に積み重ねてきた実績をもとに、時代の流れを読み、利用者目線に立った紛争解決手続の在り方を模索していきます。