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「それは私の解決じゃない」

子どもの事件の現場から(193)
「それは私の解決じゃない」

会報「SOPHIA」 令和元年8月号より

子どもの権利委員会 委員  横 井 志 貴

1 はじめに
 子どもの法律援助に携わるようになって、約1年半が経ちました。
 関わる子たちの中には児童養護施設を出て、一人暮らしを始める子たちがいます。その子たちは、仕事(や学業)と同時に身の回りの生活全般を自分一人でやることになります。
 けれども、その子たちの中には、「一人暮らし」も「仕事(や学業)」もとなると、周囲のサポートがなければなかなか安定した生活を継続できない子もいます。そのようなときに、児童養護施設などから継続的な支援をしてくれる人はいないかという話が私のところに回ってくることがあります。
2 子どもの解決を目指して
 今年の冬頃に、母親からの虐待を受け、児童養護施設に入った後18歳となり、社会へ旅立った子(仮にAさんと呼びます)の担当となりました。Aさんには児童養護施設のアフターケア事業として職員とのつながりがあり、Aさんからその職員にSOSが来たため、人づてに私が担当することになりました。
 Aさんに出会ったのは、Aさんが一人暮らしを始め1年弱が経った頃でした。この頃、Aさんは学校にも行けておらず、バイトも辞めてしまって引きこもっている状況でした。Aさん自身は働きたいと思っても心が整わず、バイト先の面接を予約しても当日具合が悪くなって行けないという繰り返しでした。
 学校も退学か休学か、家賃も未払で大家から家賃を支払うか出ていくかと催促されている状況でした。当初、Aさんと会ったときはいろいろとお話をしてくれましたが、次に会ったときには完全に無視されてしまいました。直接的な支援をすれば却ってかたくなに支援を拒否する可能性があると考え、児童養護施設の職員を介しての支援としました。
 ある時、仕事につなげようとルーキーズ(児童養護施設を出た子などを住み込み就労などの形で受け入れてくれる職親の団体)にお願いするため、児童養護施設の職員がAさんを連れ出すことがありました。その際に、職員を通してですが、Aさんから「それはそっちの解決であって、私の解決じゃないじゃん」と言われてしまいました。
 振り返ってみると、Aさんからその言葉を聞く前までは、「こういう風にすれば、生活がうまくいく」とか、「そのような道に進むのはよくない」といった気持ちで子どもに接していたのだと思います(意識はしていませんでしたが...)。子どもに「大人の解決」を押しつけていたのだなと深く反省しました。
 この言葉を聞いて、もう一度支援のあり方を考えなおしました。Aさんはどういう気持ちなんだろう?Aさんはどこを向いているんだろう?と...。
 今は、Aさんは病院に通院することについて職員と一緒なら行く様子であることも踏まえて、仕事に就くことを急ぐのではなく、まずはAさんが心を整える期間を優先して支援をしています。
3 最後に
 私の中では、なかなか衝撃を受けた言葉でしたし、子どもに教えられるってこういうことなんだなと実感しました。今、担当している子たちも、今後担当することになる子たちも「子どもの解決」となるように子どもたちと関わり続けたいと思います。