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前向きな少年から元気をもらう

子どもの事件の現場から(190)
前向きな少年から元気をもらう

会報「SOPHIA」令和元年5月号より

会員 山 谷 奈津子


 鑑別所で出会った少年は、生後すぐに乳児院に預けられ、その後、祖母に引き取られたり、児童養護施設で生活するなどして、不安定な生活を送ってきました。
 少年の母親は、少年を乳児院に預けた後、少年に適切に関わろうとせず、少年が小学2年生のときには連絡が取れなくなってしまい、そのまま行方不明になってしまいました。
 少年は、養護施設や一時保護所等の施設内で問題行動を次々と起こし、そのたびに施設を短期間で転々とし、最終的には受け入れてくれる施設がどこもないという状況にまでなっていました。
 今回少年が鑑別所に来ることになってしまったのは、一時保護所から抜け出した際に起こした事件(万引き、自転車盗など)がきっかけでした。
 少年は、どうせどこの施設も受け入れてくれない、行ったとしてもすぐ問題を起こして出て行かないといけなくなる、少年院に行くしかない、と自暴自棄になっていました。
 その中で、こうなったのは俺のせいではない、普通の家に生まれてたらこんなことにならなかった、と言った少年の言葉が私の心にずしんと響きました。
 それでも少年は、もう14歳になったのだから悪いことをするのは卒業する、これからは生まれ変わってもうおばあちゃんを悲しませない、と前向きになっていました。私が「14歳で卒業って早いね。」と言うと、「でしょ。」と言って、ニヤっと笑った彼の笑顔が印象的でした。
 壮絶な生い立ちにもかかわらず、少年はとても素直な子で、常に誰かの愛情を求めていました。まだまだ甘えたいときに母親は行方不明になっていて、母親に見捨てられたと少年は感じていました。少年の言葉ではありませんが、少年が悪いわけではない、子どもの問題行動は、周りの大人の責任なのだなと思いました。
 審判で、児童自立支援施設送致になった少年は、更生した姿をおばあちゃんに見せたい、待っててくれるおばあちゃんの元に早く戻りたいと、ここでもまた前向きでした。施設で夏にプール大会があるので、応援に行くことを約束し、鑑別所を後にしました。
 審判の約1か月後、施設のプール大会で見た少年は、一回り大きくなったように見えました。残念ながら結果は2位でしたが、「俺、やり切ったわ。」とまた前向きな言葉に、こちらが励まされました。また面会に来ることを約束して、別れたのですが...。
 それから約半年後、少年が施設の職員に暴行を加えてしまい、鑑別所に収容されたということを聞きました。それを聞いた私は、その日のうちに鑑別所に飛んでいきました。
 またトラブルを起こしてしまい、さぞかし落ち込んでいるかと思いきや、面会室に入ってきた少年は、晴れやかな表情で、「施設にいる期間、最長記録更新したわ!」とニヤリと笑っていました。一瞬、きょとんとしてしまいましたが、「そうだね。半年もいれたなんてすごいね!」と喜びを分かち合いました。
 この事件には他の弁護士が付添人につき、審判の結果、別の児童自立支援に送致になったと聞きました。
 また最長記録更新したかな?周りの大人に支えられながら、ひとつひとつの経験が少年の財産になっていくことを心から願っています。