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施設送致申請事件にかかわって

子どもの事件の現場から(184)
施設送致申請事件にかかわって

会報「SOPHIA」 平成30年 11月号より

会員 杉本 みさ紀

事案の概要

 少年は、幼少期の病気の後遺症で下半身麻痺(排便管理ができず他者による摘便が必要)と脳萎縮による知的障害を有している。実母は養育を放棄、唯一の身内である祖母の庇護のもと、社会参加できず、わがままが許容される家族関係に留まっていた。高価な商品の購入を祖母が拒むと、暴力や、周囲の自動車への損壊行為など、不快な感情を発散させる問題行動を繰り返した。

 保護観察に付された後も遵守事項違反を繰り返した。逮捕されても身体上の理由で留置できず自宅に戻されることが、歯止めがきかない一因となった。そして、保護観察所長から施設(少年院)送致申請がなされた。

受任

 自宅を訪問し、祖母同席で面会した。人見知りで、優しい印象の少年であった。祖母は「体力的にきつい」「入院費の負担が心配」「自分の年を考え、少年が入るグループホームを申し込んだが空かない」「精神科病院は、薬づけの印象があり避けたい」「少年が不憫で、被害届を出せない」と話した。障害サービスなどの連携体制は、少年が拒否しており、相談事業所の車両を損壊するなど十分機能していないように思われた。

家裁(調査官)との情報交換

 調査官と情報交換をしたところ、施設送致より、精神科病院での治療を検討すべきという意見で一致した。一緒に主治医に面会したところ、現状に鑑みれば、入院治療が有効で、行動療法となり投薬は部分的であることが判った。

 調査官や警察職員(本人が信頼を寄せている地域課担当)と共に、少年のケース会議にも出席し、保健所や障害サービス担当者などに今後の方向性を説明した。

入院に向けた支援

 役割分担で、調査官は、少年に遵守事項を守るよう、それができない場合は入院の可能性があると諭し、一方、付添人は、祖母に治療方法を説明し、入院への理解を促すとともに、病院や警察と連絡を取り、医療保護入院を想定した準備を整えた。また、少年の経済的自立を確保するため、市と協議し、祖母が障害年金の申請を行った。

退院後の生活を見据えて

 その後も少年は問題行動を繰り返し、医療保護入院となった。付添人は、病院の家族面談に同席して退院後を見据えた支援体制を模索し、その様子を裁判所に報告した。

 施設送致申請事件は、申請棄却となった。

 実母が面会に訪れ、自宅で引き取りたいと申し出た。病院が一時帰宅を試したところ、一転、引き取れないと言い出した。実母も精神的に不安定で、実母、祖母を含めた家族全体への支援が必要であった。

 少年の経済的安定、継続した支援を目指し、成年後見制度を利用することにした。後見センターに相談し、実母に理解を促し、祖母を申立人(付添人が代理人)として申立てを行い、市内の司法書士が選任された。

社会資源の整備を

 本人、家族、病院、福祉、司法関係者が信頼関係を保ち、できるだけ情報共有し、役割分担する重要性を実感した案件であった。

 社会的な逸脱行動を伴う障害者を受け入れる施設が不足している現実がある。家族は疲弊しており、社会全体で支えるべきである。行政や企業など社会に働きかけ、課題解決を探っていきたいと強く思った。