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子どもの事件の現場から(178)

会報「SOPHIA」 平成30年5月号より

会員 高 橋 直 紹

1 子どもセンター「パオ」は当会子どもの権利委員会所属の弁護士有志が中心となり立ち上げたNPO法人です。帰る家がない、家はあるが居場所がない子どもに安心安全な空間を提供し心身共に休んでもらう「子どもシェルター」、そして、次のステップに進むため少し時間を掛けて自立と自律のパワーを育んでもらう「ステップハウス」の運営を行っています。パオを利用してくれる子どもにはそれぞれパートナー弁護士が就き、パオの利用が終わった後も子どもに「もう弁護士はいらない」と言われない限り関わり、子どもの権利を保障するよう努めています。


2 パオが運営する子どもシェルター「丘のいえ」もステップハウス「ぴあ・かもみーる」も定員は各5名です。折角子どもから連絡をもらっても、タイミング悪くパオの施設が一杯で利用できないこともあります。そのようなときでも、他の施設に繋ぐなど、子どものニーズを聞きながら可能な限りの支援を続けます。


3 1月の仕事始めに、パオに18歳の女性から電話がありました。昨日親から家を追い出された、現在友人のところに泊まっている、母との折り合いが悪い、母は私の言うこと全部否定する、手を出してくることもある・・・こんな内容でした。
 とりあえず、電話をくれたことに感謝し、いまパオの施設が一杯であるが、何か応援できないか一緒に考えたいと伝え、直接会うことになりました。


4 喫茶店で落ち合い、一通り話を聴きました。彼女は、現在学校に行っていること、今後は一人で自活していきたい(一人暮らしと通学の両立が難しいなら学校を辞めて働きたい)ことなどを話してくれました。
 当面は友人宅にいることができると聞き安心しつつ、一人暮らしと通学の両立などいろいろ問題もあるので、一つ一つ解決していこうということになりました。
 まずは、捜索願が出ている可能性があるので、彼女と一緒に警察に事情説明に行った後、私から彼女のお母さんに電話をしました。私の方から、自分が関わった経緯を説明し、現在は彼女が安心安全な場所にいることを伝えました。彼女が家を出て1週間ほど経過し、心配していたお母さんは子どもが安全な場所にいることを聞いて安心してくれました。
 その2日後、ご両親が私の事務所に来訪されました。お母さんは、発達に凸凹のあるわが子の将来を案じ、ついつい介入的になっていたと反省していました。私からは、子どもの気持ちも尊重し、少し距離を取りながら親子関係を修復していくのがいいのではないかと伝えました。
 彼女と親御さんの間に入って話し合っていく中で、親御さんが彼女の居場所を詮索せず連絡等は弁護士を通すこと、親御さんが彼女の家賃分を出し彼女はアルバイトで生活費を捻出しながら学校に通うことなどが決まりました。そして、子どもの支援に理解のあるマンションのオーナーの協力もあり、彼女の一人暮らしが始まりました。


5 未成年者の支援は、法律的にいえば色々困難なことがあります。でも、「児童の意見は、その児童の年齢及び成熟度に従って相応に考慮される」という子どもの権利条約(12条1項)の理念を実現していくためには、子どものパートナー弁護士は必要なんだろうと信じて活動しています。