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退学処分を防ぐ!

子どもの事件の現場から(176)
退学処分を防ぐ!

会報「SOPHIA」 平成30年3月号より

会員 市 川 一 樹

1 事案の概要
 少年は、暴走族に加入しており、バイクで集団暴走行為を行ったことを理由に、勾留されていました。少年の年齢は17歳(高校2年生)であり、前科前歴はありませんでした。両親と少年の関係は良好であるものの、両親は仕事で家を空けることが多く、そのことで少年は寂しい思いをしていました。少年は、暴走族に加入した理由について、独りで過ごすのが嫌だったからだと言っていました。


2 復学を希望する少年
 少年は、私に対し「学校に行って、先生や友達に会いたい」と言っていました。私は、少年の更生には学校のサポートが必要不可欠だと考え、少年が復学できるように、学校と交渉することにしました。しかし、私が受任する前に、学校は、少年の両親に対し「観護措置をとられた段階で、退学処分にする」と言っていました。
 私は、少年に対し「どの先生に連絡をとって欲しいか」と尋ねました。すると、少年は「高校1年生の頃に担任だった体育の先生と、校長先生に連絡をとって欲しい。この先生たちなら、話を聞いてくれる」と言いました。
 この2人の先生は、高校1年生の頃、勉強ができず不登校になりかけた少年に対し、何度も面談(家庭訪問)をしたり、手紙を書いたりして、少年を支えた先生たちでした。


3 学校との交渉
 私は、学校にて、上記2人の先生と面談しました。しかし、私が何を言っても、体育の先生は「校長先生にお任せします」と言い、校長先生は「この学校では、観護措置をとられたら退学処分にするのが通例ですから」と淡々と繰り返すばかりで、一向に話が進みませんでした。
 私は、これ以上同じ話を続けても意味がないと考え、最後に何か少年の更生の助けになることをして帰ろうと思いました。
 そこで私は、校長先生に対し、以下の通り迫りました。
 「退学処分にすることについては、分かりました。もう何も言いません。しかし、少年は、自動的に退学になるわけではありません。あなたが、教師として、プロとして、少年を退学させるのです。少年は、あなたを信頼しています。今後の少年の更生のために、あなたが、少年のためにどのようなことを考えて、退学処分をすることにしたのか、教えてください。あなたの言葉を、そのまま少年に伝えます。何も言わない場合には、その事実を少年に伝えます」
 すると、校長先生は「私だって辛いんですよ!」と泣きながら私に訴えかけてきました。
 私は、校長先生の変貌ぶりに驚愕しつつ、「辛いなら、無理に退学にしなくてもいいんじゃないですか」と言いました。
 結局、校長先生は、少年を停学処分とし、退学処分にはしませんでした。


4 まとめ
 少年は、その後別件で再逮捕されるなどありましたが、審判の際には、学校に復学予定であることも考慮され、保護観察処分を受けました。
 4月から、少年は学校に復学します。
 教師と真剣に向き合った結果、少年にとって、よい解決ができ、嬉しく感じています。